「創業したばかりなので、経理は社長が対応すればよいのだろうか。」
「事業が成長してきたが、今の経理体制をいつまで続けてよいのか分からない。」
スタートアップでは、会社の成長に伴って、経理に求められる役割も変わります。
創業直後は、請求、支払、記帳などの基本業務を止めないことが優先です。しかし、取引や従業員が増えると、月次決算、資金繰り、予実管理、会計ルールの整備なども必要になります。
最初から大人数の経理部門をつくる必要はありません。一方で、創業期の経理体制を長く続けすぎると、数字の把握が遅れたり、特定の人に業務が集中したりする可能性があります。
重要なのは、売上や従業員数だけで判断するのではなく、会社が現在どの段階にあり、次の段階でどのような経理機能が必要になるかを考えることです。
この記事では、スタートアップの成長を4つの段階に分け、それぞれの段階で必要となる経理業務と、社内外の役割分担を解説します。
資金調達、IPO準備、子会社の増加など、経営イベントを見据えた経理体制全体の考え方については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:成長企業の経理体制|資金調達・IPO準備・子会社の増加に対応する方法
スタートアップの経理体制は段階ごとに役割が変わる
スタートアップの経理体制に、すべての会社へ共通する正解はありません。
同じ従業員数でも、月額制のサービスを提供する会社と、商品在庫を保有する会社では必要な経理業務が異なります。国内取引だけの会社と、海外取引や複数通貨を扱う会社でも、経理の複雑さは変わります。
そのため、成長段階は売上や従業員数だけで区切るのではなく、必要となる経理機能の変化で考えます。
| 成長段階 | 経理の主な目的 | 新たに必要になる機能 |
|---|---|---|
| 創業期 | 日常業務を止めない | 請求、支払、記帳、証憑保存 |
| 月次管理への移行期 | 毎月の数字を把握する | 月次決算、残高確認、締切管理 |
| 事業拡大期 | 経営判断に使える数字をつくる | 資金繰り、予実管理、部門別管理 |
| 組織化期 | 誰が担当しても同じ品質を保つ | 業務標準化、承認、証跡、役割分担 |
現在の業務を処理できるかだけでなく、半年から1年後に必要となる数字や資料も考慮して、経理体制を整えることが大切です。
1.創業期は基本的な経理業務を止めない
創業直後は、社長や事務担当者が経理を兼務するケースが多くあります。
取引件数が少ない段階では、社内で請求や支払を行い、記帳や決算申告を外部へ依頼する体制でも業務を進められます。
この段階で優先したいのは、複雑な管理資料を作ることではありません。まずは、次の基本業務を確実に行います。
- 売上を請求する
- 入金状況を確認する
- 取引先への支払を行う
- 領収書や請求書を保存する
- 銀行口座やカードの明細を整理する
- 給与や経費を処理する
- 決算や申告に必要な資料をそろえる
会社と個人のお金を分ける
創業期に特に重要なのが、会社と個人のお金を分けることです。
会社用の銀行口座やクレジットカードを決め、事業に関する入出金を集約します。個人のカードで会社の費用を支払った場合は、立替金として記録し、精算方法を決めます。
会社と個人の取引が混在すると、会計処理だけでなく、資金残高の把握も難しくなります。
証憑の保存場所を一つにする
請求書や領収書が、紙、メール、チャット、個人のパソコンなどに分散すると、月次処理や決算時の負担が増えます。
創業期から、次のような保存ルールを決めます。
- 紙の資料を保管する場所
- PDFや画像を保存するフォルダ
- ファイル名の付け方
- 誰が保存するか
- いつまでに保存するか
詳細な経理規程を作る必要はありませんが、「どこを見れば必要な資料があるか」が分かる状態にします。
月に一度は数字を確認する
創業期でも、決算まで数字を確認しない状態は避けます。
毎月少なくとも、
- 売上
- 主な費用
- 預金残高
- 入金予定
- 支払予定
を確認します。
利益が出ていても、入金より支払が先に発生すれば、資金が不足する可能性があります。会計ソフトへの入力がすべて完了していない場合でも、現在の資金残高と今後の支払予定は把握しておくことが大切です。
2.月次管理への移行期は毎月数字を確認できる状態をつくる
売上や取引先が増え始めると、請求書、入金、支払、経費精算などの件数も増えます。
創業期と同じ方法で処理を続けていると、月末や決算前に作業が集中しやすくなります。
この段階では、日常業務を処理する体制から、毎月の業績を継続的に確認できる体制へ移行します。
月次決算の締め日を決める
まず、毎月の数字をいつまでにまとめるかを決めます。
例えば、翌月15日に月次資料を確認する場合は、そこから逆算して次の期限を設定します。
- 売上の確定日
- 請求書の発行日
- 経費申請の期限
- 仕入先からの請求書回収期限
- 不明な取引への回答期限
- 預金や売掛金の確認日
締め日を決めても、必要な資料が届かなければ月次決算は完了しません。経理担当者だけでなく、営業や現場担当者にも期限を共有します。
残高を継続的に確認する
会計ソフトへ仕訳を入力しただけでは、数字が正しいとは限りません。
月ごとに、次の残高を確認します。
- 預金
- 売掛金
- 買掛金
- 未払金
- 仮払金
- 立替金
例えば、入金済みなのに売掛金が残っている場合は、消込が漏れている可能性があります。預金残高が銀行明細と合わない場合は、入力漏れや二重登録を確認します。
残高確認を毎月行うことで、決算時に1年分の差額をまとめて調べる負担を減らせます。
システムは業務の流れと合わせて整える
取引が増えた段階では、銀行口座や法人カードと会計ソフトを連携したり、経費精算や請求書発行をクラウド化したりする方法があります。
ただし、システムを導入するだけで経理が整うわけではありません。
次の内容も一緒に決めます。
- 誰がデータを確認するか
- 自動取得した明細を誰が処理するか
- 不明な取引を誰に確認するか
- いつまでに承認するか
- 月次資料を誰が確認するか
システムと業務ルールをセットで整えることが重要です。
3.事業拡大期は経営判断に使える数字をつくる
従業員、取引先、サービス、部門などが増えると、会社全体の売上と利益だけでは経営状況を判断しにくくなります。
この段階では、月次決算を終えるだけでなく、数字の変化を説明し、将来の判断に活用できる体制が必要です。
部門別・事業別に数字を確認する
複数のサービスや事業を展開している場合、会社全体では利益が出ていても、どの事業が利益を生み出しているのか分からないことがあります。
必要に応じて、次の単位で収支を確認します。
- 部門
- 店舗
- サービス
- プロジェクト
- 地域
ただし、細かく分けすぎると入力や確認の負担が増えます。経営判断に実際に使用する単位に絞ることが大切です。
予算と実績の差を確認する
事業拡大期には、過去の数字を集計するだけでなく、計画との差を確認します。
例えば、次の項目を月ごとに比較します。
- 売上
- 売上原価
- 人件費
- 広告費
- 外注費
- 営業利益
- 資金残高
差が生じた場合は、金額だけでなく原因も確認します。
売上が予算を下回っている場合でも、契約の失注、納品時期のずれ、解約の増加など、原因によって対応は異なります。
資金繰りを見通す
採用、広告、設備などへの投資を増やす段階では、現在の預金残高だけでなく、数カ月先の資金残高を確認します。
主な確認項目は次のとおりです。
- 売掛金の入金予定
- 買掛金や未払金の支払予定
- 給与や社会保険料
- 税金
- 借入金の返済
- 採用や設備投資の予定
事業が成長して売上が増えていても、先行投資や入金サイトによって資金が不足する場合があります。
資金調達を予定している場合は、日常的な経理業務に加えて、直近の試算表、資金繰り、予算と実績の比較、資金使途の根拠などを説明できる体制が必要です。
資金調達前に整えておきたい経理業務と資料については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:資金調達前に整えたい経理体制|月次決算・資金繰り・予実管理の準備
4.組織化期は誰が担当しても同じ品質を保てるようにする
会社の規模が大きくなり、複数人が経理業務へ関わるようになると、担当者ごとの判断の違いが数字へ影響しやすくなります。
この段階では、一人の経験や記憶に依存せず、誰が担当しても一定の品質を保てる体制を整えます。
作業・確認・承認を分ける
一人の担当者が、仕訳入力、確認、承認、支払まで行うと、誤りや不正を発見しにくくなります。
可能な範囲で、次の役割を分けます。
- 取引内容を確認する人
- 会計処理を行う人
- 処理結果を確認する人
- 支払を承認する人
- 月次資料を確認する責任者
社内の人数だけで役割を分けられない場合は、経理代行や専門家を組み合わせる方法があります。
会計処理と業務手順を明文化する
担当者によって処理が変わらないよう、次の内容を整理します。
- 売上を計上する時期
- 費用を計上する基準
- 勘定科目の使い分け
- 固定資産の判定基準
- 部門やプロジェクトの設定方法
- 月次決算の手順
- 証憑の保存方法
- 申請・承認の流れ
- 担当者が不在の場合の対応
最初からすべてを詳細に文書化する必要はありません。金額への影響が大きい取引や、毎月判断に迷う処理から整えます。
業務の属人化を防ぐ
経験豊富な担当者がいても、その人だけが処理方法を理解している状態では、安定した体制とはいえません。
業務一覧、年間スケジュール、操作手順、確認先などを整理し、別の人でも業務を引き継げる状態にします。
属人化を防ぐための具体的な進め方については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経理の属人化を解消する方法
M&Aで会社を取得した場合は経理統合を進める
組織化期にM&Aによって既存の会社をグループへ加える場合は、新設子会社とは異なり、買収先ですでに運用されている経理業務や会計システムを確認する必要があります。
M&A後の日常経理を止めず、月次決算や管理体制を段階的に整える方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:M&A後の経理統合とは?日常業務を整える7つのポイント
買収先が子会社として事業を継続する場合は、経理統合後の運用について、本社が管理する業務と子会社が担当する業務を整理します。
請求、支払、記帳、月次決算などにおける本社と子会社の役割分担は、以下の記事で確認できます。
合わせて読みたい:子会社が増えた会社の経理体制|本社と子会社の役割分担
IPO準備を見据える場合は専門的な対応を分ける
IPO準備を予定している場合は、日常経理の標準化に加えて、内部管理、監査対応、会計方針、開示などの専門的な対応が必要になります。
日常的な資料整理や記帳と、専門的な判断・IPO実務を同じ業務として扱わず、担当者と契約範囲を分けることが重要です。
IPO準備中でも、証憑整理、定型的な仕訳入力、残高確認などに経理代行を活用できる場合があります。一方、重要な会計方針の決定・承認、監査対応、数字の説明などは会社側が主体となって行います。
IPO準備中に経理代行へ任せられる業務と、社内に残すべき役割については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:IPO準備企業は経理代行をどこまで利用できる?社内に残す業務と役割分担
次の成長段階へ移るサインと事前に整えたいこと
具体的な売上高や従業員数だけで、経理体制を変更する時期を一律に決めることはできません。
業務量や管理上の変化を確認し、次の段階で必要となる機能を早めに整えます。
| 現在の段階 | 次の段階へ移るサイン | 事前に整えたいこと |
|---|---|---|
| 創業期 | 請求や支払が増え、月末や決算時に処理が集中する | 証憑の保存場所、請求・支払期限、月次確認 |
| 月次管理への移行期 | 経営者が会社全体の損益だけでは判断しにくくなる | 月次締め、残高確認、社内窓口 |
| 事業拡大期 | 複数の部門や担当者が経理業務に関与し始める | 予実管理、資金繰り、数字を説明する担当者 |
| 組織化期 | 監査、IPO準備、子会社管理などへの対応が必要になる | 会計ルール、承認手順、業務マニュアル |
事業が成長してから体制を整えようとすると、通常業務と移行作業を同時に進めなければならない場合があります。
次の段階へ移る兆候が見えた時点で、負担の大きい業務から順番に準備を進めることが大切です。
成長段階に応じて社内と外部の役割を変える
スタートアップの経理体制は、すべてを社内で行うか、すべてを外部へ任せるかの二択ではありません。
成長段階に応じて、社内と外部の役割を変えられます。
| 成長段階 | 社内の主な役割 | 外部へ依頼しやすい業務 |
|---|---|---|
| 創業期 | 取引内容の判断、支払承認 | 記帳、決算、資料整理 |
| 月次管理への移行期 | 資料提出、請求・経費の確認 | 記帳、残高確認、月次資料 |
| 事業拡大期 | 予算管理、業績確認、資金判断 | 月次決算、管理資料の作成支援 |
| 組織化期 | 重要な会計方針の決定・承認、社内管理 | 定型業務、業務標準化の支援 |
社内の担当者を採用した後も、すぐにすべてを内製化する必要はありません。
一方、外部へ依頼する場合も、取引内容を説明する窓口や、成果物を確認する責任者は会社側に必要です。
採用・外注・経理代行の選び方を詳しく比較したい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:中小企業の経理体制の作り方|採用・外注・経理代行の選び方
経理担当者を採用した後、どのタイミングで内製化へ切り替えるかについては、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行から内製化するタイミング|5つの判断基準と6つの移行手順
成長段階に合わない経理体制で起こりやすい3つの問題
創業期の運用を長く続ける
取引が増えているにもかかわらず、領収書をまとめて処理し、決算時に数字を確認する運用を続けると、業績や資金状況の把握が遅れます。
請求や支払が増えてきたら、月次管理への移行期に入り、毎月数字を確認する体制へ変えていきます。
必要以上に複雑な体制を早くつくる
将来を見据えることは重要ですが、創業直後から詳細な管理資料や複雑な承認フローを導入すると、事業運営の負担になることがあります。
現在の経営判断に必要な情報から優先して整え、成長に合わせて追加します。
担当者だけを増やして業務を整理しない
業務の流れやルールが曖昧なまま人員を増やすと、確認や手戻りも増える可能性があります。
採用や外注の前に、業務、締切、確認者、成果物を整理することが大切です。
公認会計士の視点|一段階先で必要になる数字から逆算する
スタートアップの経理体制を考える際は、現在の取引を処理できるかだけでなく、次の成長段階でどのような数字が必要になるかを確認します。
例えば、創業期には売上、費用、資金残高を把握できれば足りる場合があります。
事業が拡大すると、部門別の業績や予算との差、将来の資金残高なども必要になります。組織化が進めば、数字の根拠や承認履歴を第三者へ説明できる状態が求められます。
現在の業務へ必要以上に複雑な仕組みを導入する必要はありません。
一方で、次の段階へ進んでから慌てて整えるのではなく、半年から1年先に必要となる数字や資料を見据えて、経理体制を段階的に変えることが大切です。
よくある質問
Q1. 創業直後から専任の経理担当者は必要ですか?
必ずしも必要ではありません。
取引件数が少ない段階では、社長や事務担当者が社内窓口となり、記帳や決算を外部へ依頼する方法があります。
ただし、社内では取引内容の確認、資料提出、支払承認などを行う人を決めておく必要があります。
Q2. 成長段階は売上や従業員数で判断できますか?
売上や従業員数は一つの目安ですが、それだけでは判断できません。
取引件数、事業数、在庫の有無、海外取引、必要な管理資料、資金調達などの予定によって、必要な経理体制は変わります。
請求や支払の集中、会社全体の数字だけでは判断できない状態、複数担当者の関与など、業務上の変化も確認します。
Q3. 経理代行を利用すると、社内の経理担当者は不要になりますか?
経理代行を利用する場合も、社内窓口や承認者は必要です。
外部では判断できない取引内容の確認、資料提出、支払承認、月次資料の確認などは会社側に残ります。
社内と外部の役割を明確にすることが重要です。
Q4. 資金調達やIPO準備を予定していなくても、月次決算は必要ですか?
資金調達やIPO準備の予定がなくても、月ごとの利益や資金残高を把握することは経営判断に役立ちます。
取引や従業員が増え、支出も大きくなってきた段階では、月次決算の締め日を決め、継続的に数字を確認する必要性が高まります。
まとめ
スタートアップに必要な経理体制は、会社の成長段階によって変わります。
創業期は、請求、支払、記帳、証憑保存などの基本業務を止めないことが優先です。
月次管理への移行期には、月次決算の締め日を決め、預金や売掛金などの残高を継続的に確認できる体制を整えます。
事業拡大期には、部門別の業績、予算と実績の差、将来の資金残高など、経営判断に使える数字が必要になります。
組織化期には、担当者の経験だけに頼らず、作業、確認、承認を分け、会計処理と業務手順を明文化します。
最初から完成した経理部門をつくる必要はありません。現在の段階で必要な機能を整えながら、次の段階へ移る兆候を確認し、必要となる数字や資料を見据えて体制を変えることが大切です。
経理代行の料金は、取引件数、依頼する業務、月次資料の内容などによって異なります。料金相場や費用の内訳については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
経理代行サブスクサービス「まるまる経理」では、日常経理、月次決算、残高確認、業務ルールの整備など、会社の成長段階に合わせた経理実務の運用を支援します。
公認会計士が業務設計と品質管理に関与し、現在の業務だけでなく、半年から1年先に必要となる経理体制も見据えて役割を整理します。専門的な会計判断やIPO実務については、必要に応じて業務範囲を切り分けて対応します。
経理を社長が兼務している、月次決算が遅れている、採用と外注のどちらがよいか分からない場合は、現在の体制を整理するところからご相談ください。
