「資金調達を検討しているが、経理面で何から準備すればよいのだろうか。」
「決算書はあるものの、直近の業績や今後の資金残高をすぐに説明できない。」
資金調達では、将来の事業計画だけでなく、これまでの実績や現在の財務状況についても説明を求められることがあります。
決算書を提出できても、直近の試算表が完成していない、売掛金の残高が合っていない、事業計画と会計数値のつながりを説明できない状態では、必要な資料をそろえるまでに時間がかかります。
資金調達前に重要なのは、見栄えのよい資料を一時的に作ることではありません。
日常の経理業務を通じて、
- 直近の業績を確認できる
- 数字の根拠を説明できる
- 今後の資金残高を見通せる
- 計画と実績の差を把握できる
- 必要な資料を短期間で提出できる
という状態を整えることです。
この記事では、融資や出資を検討するスタートアップ・成長企業が、資金調達前に整えておきたい経理体制を解説します。
資金調達だけでなく、IPO準備や子会社の増加なども含めて経理体制を見直したい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:成長企業の経理体制|資金調達・IPO準備・子会社の増加に対応する方法
資金調達前に経理体制を整える理由
資金調達を行う際に確認される内容は、金融機関、投資家、調達方法、会社の成長段階によって異なります。
一般的には、次のような内容を説明できる状態が必要です。
- これまでの売上や利益
- 現在の預金残高
- 売掛金や買掛金の状況
- 毎月発生する固定費
- 今後の売上・費用計画
- 調達した資金の使い道
- 資金調達後の資金残高
- 計画どおりに進まない場合の対応
資料を提出するだけでなく、「なぜこの数字になっているのか」を説明できることが重要です。
例えば、売上が急増していても、一時的な大型案件によるものなのか、継続的な契約が増えているのかによって数字の見方は変わります。
赤字の場合も、事業が不調だから赤字なのか、採用や広告などの先行投資による赤字なのかを区別して説明する必要があります。
資金調達前に経理体制を整える目的は、必ず資金調達を成功させることではありません。会社の実績と計画を、根拠を示しながら説明できる状態をつくることです。
融資と出資では確認されやすい内容が異なる
資金調達には、金融機関などから借り入れる融資と、投資家から資金を受け入れる出資などがあります。
実際の確認項目は調達先によって異なりますが、一般的には次のような違いがあります。
| 項目 | 融資で確認されやすい内容 | 出資で確認されやすい内容 |
|---|---|---|
| 過去の実績 | 決算、利益、返済状況、納税状況 | 売上成長率、顧客数、事業実績 |
| 現在の状況 | 試算表、預金、借入金、資金繰り | 月次業績、事業別実績、主要KPI |
| 将来計画 | 返済原資、資金使途、収支計画 | 成長計画、市場規模、投資後の事業展開 |
| 重視される説明 | 借入金を返済できるか | 事業がどのように成長するか |
| 経理面の準備 | 正確な残高と資金繰り | 実績と計画の整合性、予実管理 |
融資では返済可能性を説明するため、過去の決算や現在の資金状況が重要になります。
出資では将来の成長可能性も重視されるため、事業計画と実績のつながりや、売上・費用を構成する前提を説明できる状態が必要です。
ただし、融資であっても将来計画は必要であり、出資であっても過去の実績や残高の正確性が不要になるわけではありません。
資金調達前に整えたい7つの経理項目
1.月次決算の締め日を決める
資金調達の相談が始まったときに、直近の数字が数カ月前のままでは、現在の状況を説明しにくくなります。
毎月の数字をいつまでに確定するかを決め、そこから逆算して次の期限を設定します。
- 売上の確定日
- 請求書の発行日
- 経費申請の期限
- 仕入先からの請求書回収期限
- 不明な取引への回答期限
- 月次資料の確認日
翌月10日や15日など、自社で継続できる締め日を設定します。
一度だけ早く試算表を作るのではなく、毎月同じ時期に数字を確認できる状態にすることが大切です。
2.貸借対照表の残高を確認する
損益計算書に売上や利益が表示されていても、貸借対照表の残高が正確とは限りません。
資金調達前には、特に次の項目を確認します。
- 預金
- 売掛金
- 買掛金
- 未払金
- 借入金
- 仮払金
- 立替金
- 役員貸付金・役員借入金
- 固定資産
預金残高は銀行明細と一致しているか、売掛金には入金済みの取引が残っていないか、借入金残高は返済予定表と一致しているかを確認します。
長期間動いていない残高がある場合は、内容と発生理由を調べます。
数字を無理に消すのではなく、何の残高なのか、いつ解消する予定なのかを説明できる状態にします。
3.売上と費用の計上ルールを整理する
事業計画と実績を比較するには、月ごとの売上や費用が一定の基準で計上されている必要があります。
例えば、入金時に売上を計上した月と、サービス提供時に売上を計上した月が混在していると、月ごとの業績を正しく比較できません。
少なくとも、次のルールを整理します。
- 売上を計上する時期
- 複数月契約の売上配分
- 外注費や仕入の計上時期
- 前払費用の処理
- 未払費用の計上
- 返金や値引きの処理
- 補助金や助成金の処理
- 一時的な取引の表示方法
専門的な会計判断が必要な取引は、社内だけで決めず、税理士や公認会計士などへ確認します。
4.資金繰り表を作成する
資金調達額を考えるには、現在の預金残高だけでなく、今後いつ資金が不足する可能性があるかを把握する必要があります。
資金繰り表には、次のような入出金を反映します。
主な入金
- 売掛金の回収
- 現金売上
- 借入金
- 出資金
- 補助金・助成金
- 資産売却代金
主な支出
- 仕入・外注費
- 給与・賞与
- 社会保険料
- 家賃
- 広告費
- 税金
- 借入金の返済
- 設備投資
- 採用関連費用
補助金・助成金など、入金時期や受給の可否が確定していないものは、確定入金として扱わず、入金がない場合も含めて複数のケースで資金残高を確認します。
資金繰り表は、損益計算書とは異なります。
売上を計上した月と、実際に入金される月が異なるためです。借入金の入金や元本返済も、損益計算書にはそのまま表れません。
月ごとの入出金を整理し、調達を行わなかった場合と、調達した場合の資金残高を比較します。
5.予算と実績を比較する
事業計画を作成しても、実績との比較を行っていなければ、計画の妥当性を説明しにくくなります。
少なくとも次の項目を、月ごとに比較します。
- 売上
- 売上原価
- 人件費
- 広告費
- 外注費
- 営業利益
- 預金残高
差が生じた場合は、金額だけでなく理由も確認します。
| 差が生じた項目 | 確認する内容の例 |
|---|---|
| 売上 | 契約数、単価、解約、納品時期 |
| 売上原価 | 仕入価格、外注単価、案件構成 |
| 人件費 | 採用時期、採用人数、賞与 |
| 広告費 | 出稿時期、獲得単価、施策変更 |
| 資金残高 | 入金遅延、支払時期、投資の前倒し |
計画と実績が一致していないこと自体が問題なのではありません。
差が生じた理由を把握し、今後の見込みへ反映できていることが重要です。
6.資金使途と金額の根拠を整理する
「事業を拡大するために1,000万円必要」という説明だけでは、必要額の根拠が分かりません。
資金使途を具体的に分けます。
| 資金使途 | 金額の根拠 |
|---|---|
| 採用費 | 採用人数、採用単価、入社予定月 |
| 人件費 | 月額給与、社会保険料、対象期間 |
| 広告費 | 月額予算、実施期間、施策内容 |
| システム開発費 | 見積書、開発期間、支払条件 |
| 設備投資 | 見積金額、購入時期 |
| 運転資金 | 月間固定費、入金サイト、必要月数 |
調達額を決める際は、必要な支出だけでなく、調達に時間がかかった場合や、売上計画が遅れた場合も検討します。
ただし、必要額を大きく見せるために根拠のない予備費を積み上げるのではなく、前提を明確にして複数のケースを用意します。
7.数字を説明する担当者を決める
記帳や資料作成を税理士や経理代行へ依頼している場合でも、会社側に数字を説明する担当者は必要です。
社内では、次の内容を説明できるようにします。
- 主な収益源
- 売上が増減した理由
- 原価や人件費の構造
- 主要な売掛金・買掛金
- 現在の借入状況
- 調達資金の使い道
- 今後の事業計画
- 計画を下回った場合の対応
外部の担当者が会計資料を作成していても、事業の背景や今後の方針まで代わりに決めることはできません。
経営者、管理責任者、経理担当者、外部専門家のうち、誰がどの質問に回答するかを整理します。
資金調達前に準備したい主な資料
必要な資料は調達方法や提出先によって異なりますが、一般的には次の資料を準備しておくと対応しやすくなります。
| 資料 | 確認するポイント |
|---|---|
| 決算書・確定申告書 | 提出対象期間と一式がそろっているか |
| 直近の試算表 | 最新月まで処理され、残高確認が済んでいるか |
| 月次損益推移 | 売上や費用の増減を説明できるか |
| 資金繰り表 | 今後の入出金と資金不足時期が分かるか |
| 予算・事業計画 | 実績と同じ会計区分で比較できるか |
| 予実比較表 | 差額とその理由が分かるか |
| 借入金一覧 | 残高、金利、返済額、返済期限が分かるか |
| 売掛金・買掛金一覧 | 相手先、金額、発生日、回収・支払予定が分かるか |
| 資金使途の内訳 | 金額の根拠や見積書があるか |
| 重要な契約書 | 売上や費用の根拠と一致しているか |
日本政策金融公庫の案内では、法人の融資申込時に、最近の決算書・確定申告書や、一定の場合に最近の試算表などの提出が案内されています。
創業前または創業後間もない場合は、創業計画書や月別収支計画書を活用できます。
参考:日本政策金融公庫「インターネット申込の必要書類のご案内」
必要資料は申込先や会社の状況によって異なるため、実際の資金調達時には提出先へ確認してください。
資金調達前によくある経理上の問題
直近の試算表が完成していない
決算書は完成していても、その後の月次処理が遅れていると、現在の業績を説明できません。
資金調達を検討し始めた段階で、未処理の月を確認し、月次決算の締め日を決めます。
提出資料ごとに数字が異なる
試算表、事業計画、資金繰り表で売上や費用の数字が異なると、どの資料が正しいのか分かりにくくなります。
資料ごとに目的は異なりますが、数字が異なる場合は、会計上の実績、入出金、将来予測などの違いを説明できるようにします。
売掛金や仮払金の内容が分からない
古い売掛金、仮払金、立替金などが残っていると、資産として回収できるものなのか判断しにくくなります。
相手先、発生日、内容、回収・精算予定を確認します。
事業計画が会計実績とつながっていない
売上計画が大幅に増えているにもかかわらず、契約数、単価、採用人数などの根拠がない場合は、計画の妥当性を説明しにくくなります。
過去の実績を基準に、何が変わることで売上や費用が増減するのかを整理します。
調達希望額の根拠が曖昧
希望額を先に決め、後から使い道を当てはめると、資金計画に無理が生じることがあります。
採用、広告、設備、運転資金などに分け、支出時期と金額の根拠から必要額を積み上げます。
資金調達準備における社内と外部の役割分担
資金調達前の経理準備は、すべてを経営者一人で行う必要はありません。
一方、経理代行や専門家へすべて任せられるわけでもありません。
| 役割 | 主な対応内容 |
|---|---|
| 経営者 | 事業方針、成長計画、資金使途の決定 |
| 社内担当者 | 資料回収、取引内容の確認、社内調整 |
| 経理代行 | 記帳、残高確認、月次資料、資金繰り資料の作成支援 |
| 税理士 | 税務処理、申告内容、税務上の確認 |
| 公認会計士など | 専門的な会計判断、財務資料や体制の確認 |
| 金融機関・投資家等 | 必要資料の指定、事業や財務状況の確認 |
経営者は、事業計画や資金の使い道を決め、会社の数字を自分の言葉で説明します。
経理担当者や外部支援者は、その説明の根拠となる資料を正確かつ継続的に作成できる体制を整えます。
採用、外注、経理代行をどのように組み合わせるかについては、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:中小企業の経理体制の作り方|採用・外注・経理代行の選び方
経理代行の一般的な業務内容と導入の流れについては、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
資金調達の準備はいつから始めるべきか
資金が不足してから準備を始めると、月次処理、残高確認、事業計画の作成を短期間で同時に進めなければならない場合があります。
準備を始める時期を、売上高や従業員数だけで判断する必要はありません。
次のような状況が見られたら、資金調達の可能性を含めて経理体制を確認します。
- 採用や広告への投資を増やす予定がある
- 大型の設備投資を予定している
- 売上の入金より支払が先に発生する
- 数カ月後に預金残高が大きく減る見込みがある
- 新規事業を始める予定がある
- 月次の数字が完成するまで時間がかかる
- 事業計画と実績を比較していない
スタートアップの成長段階ごとに必要となる経理機能については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:スタートアップの経理体制|成長段階別に必要な業務と役割分担
公認会計士の視点|計画よりも実績とのつながりが重要
資金調達の準備では、将来の売上や利益を示す事業計画に目が向きやすくなります。
しかし、計画だけを詳しく作っても、過去の実績とのつながりが分からなければ、数字の根拠を説明しにくくなります。
例えば、来期の売上を今期の2倍とする場合は、
顧客数がどれだけ増えるのか
平均単価がどう変わるのか
解約率はどの程度か
営業担当者を何人採用するのか
売上計上までにどれくらいかかるのか
などの前提へ分けます。
費用についても、売上の増加に伴って変動する費用と、毎月固定的に発生する費用を区別します。
実績、事業上の前提、将来計画がつながることで、計画と異なる結果になったときにも原因を分析しやすくなります。
資金調達のためだけに資料を作るのではなく、調達後も経営管理に使用できる数字を整えることが大切です。
資金調達後にIPO準備へ進む場合は、月次決算や予実管理を継続するだけでなく、会社側に残す会計判断、承認、監査対応などの業務と、外部へ任せる定型業務を整理する必要があります。
IPO準備中における会社側と経理代行の役割分担については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:IPO準備企業は経理代行をどこまで利用できる?社内に残す業務と役割分担
よくある質問
Q1. 資金調達前には何カ月分の試算表が必要ですか?
必要な期間や資料は、金融機関、投資家、調達方法、会社の決算状況によって異なります。
重要なのは、指定された期間の資料をそろえることに加え、直近月まで継続的に数字を確認できる状態にすることです。
実際の提出資料は、資金調達先へ確認してください。
Q2. 赤字でも資金調達の準備はできますか?
赤字だから準備できないわけではありません。
ただし、赤字の原因、現在の資金残高、資金が必要になる時期、調達後の改善計画などを説明できる状態が必要です。
先行投資による赤字なのか、売上不足や原価上昇による赤字なのかを整理します。
Q3. 資金繰り表と損益計算書は何が違いますか?
損益計算書は、一定期間の売上・費用・利益を示す資料です。
資金繰り表は、実際の入金と支払をもとに、預金残高がどのように変化するかを示します。
売上を計上した月と入金月が異なることや、借入金の入金・元本返済があるため、利益と資金残高は一致しません。
Q4. 経理代行へ資金調達の準備をすべて任せられますか?
記帳、残高確認、月次資料など、資金調達の前提となる会計データの整理を支援できる場合があります。
資金繰り表や予実比較資料の作成は、対応プランおよび契約範囲に応じて行います。
ただし、事業計画、資金使途、将来の経営方針、金融機関や投資家への説明は、会社側が主体となって行います。
融資申請、事業計画の策定、投資家向け資料の作成、金融機関や投資家との交渉などの専門的な資金調達支援は、日常的な経理業務とは業務範囲を分ける必要があります。
まとめ
資金調達前には、事業計画を作成するだけでなく、その根拠となる経理体制を整える必要があります。
特に重要なのは、次の7項目です。
- 月次決算の締め日を決める
- 貸借対照表の残高を確認する
- 売上と費用の計上ルールを整理する
- 資金繰り表を作成する
- 予算と実績を比較する
- 資金使途と金額の根拠を整理する
- 数字を説明する担当者を決める
資金調達の相談が始まってから過去の資料をまとめて整理するのではなく、日常の経理業務を通じて、直近の数字を継続的に確認できる状態をつくることが大切です。
経理代行の料金は、取引件数、月次決算の範囲、依頼する資料作成などによって異なります。料金相場と費用の内訳については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
経理代行サブスクサービス「まるまる経理」では、日常経理、月次決算、残高確認など、資金調達の前提となる経理実務の運用を支援します。
契約内容に応じて、資金繰り表や予実比較資料の作成に必要な会計データの整理・資料作成も支援します。資金繰り表や予実比較資料の作成は、対応プランおよび契約範囲に応じて行います。
