「経理担当者を採用できたので、そろそろ経理代行をやめても大丈夫だろうか」
「会社の規模が大きくなってきた。経理も社内で行った方がよいのではないか」
経理代行を利用している会社では、事業の成長や担当者の採用をきっかけに、このような迷いが生まれることがあります。
ただ、担当者が一人加わったからといって、翌月からすべての経理業務を社内へ戻せるとは限りません。経理代行が担当しているのは仕訳入力だけではなく、証憑の回収や整理、請求書の発行、支払準備、残高確認、月次資料の作成など、毎月繰り返す細かな作業も含まれているからです。
これらを短期間で一人の担当者へ引き継ぐと、日々の処理に追われ、月次決算まで手が回らなくなることもあります。
内製化を考えるときは、「経理代行を続けるか、完全にやめるか」の二択にする必要はありません。まずは一部の業務を社内へ移し、無理なく続けられることを確認してから次へ進む方法もあります。
この記事では、経理代行から内製化するタイミングを判断する基準と、業務を止めずに移行するための手順を解説します。
会社の成長に合わせて経理体制を見直す考え方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
合わせて読みたい:成長企業の経理体制|資金調達・IPO準備・子会社の増加に対応する方法
経理の内製化は、すべての業務を社内へ戻すことではない
「内製化」と聞くと、外部へ任せている業務をすべて社内で行う状態をイメージするかもしれません。
実際には、経理業務を一つずつ分け、社内で担当するものと外部へ残すものを決められます。
| 業務 | 社内で行う例 | 外部へ残す例 |
|---|---|---|
| 証憑管理 | 社内で回収・確認する | データ整理を依頼する |
| 記帳 | 社内担当者が入力する | 定型仕訳を依頼する |
| 請求書発行 | 社内で内容を確認して発行する | 発行作業を依頼する |
| 支払準備 | 請求内容を社内で確認する | 振込データの作成を依頼する |
| 月次決算 | 社内で残高や増減を確認する | 一部の資料作成や確認を依頼する |
| 会計判断 | 社内責任者が判断する | 必要に応じて専門家へ相談する |
| 最終承認 | 経営者や責任者が行う | 外部には任せない |
例えば、請求内容の確認や支払承認は社内で行い、記帳や振込データの作成は経理代行へ任せる形があります。社内担当者が各部門との調整や数字の確認に集中し、繰り返し発生する作業は外部へ残す方法です。
経理代行へ振込データの作成を依頼する場合も、支払内容の確認、承認、最終的な振込実行は会社側で行います。作業と承認を分けることで、誤った支払や不正を防ぎやすくなります。
自社に合う経理体制を考えるときは、「採用か外注か」を一度に決めるのではなく、業務ごとに適した担当を考える方が現実的です。
採用、外注、経理代行を組み合わせた体制の作り方については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:中小企業の経理体制の作り方|採用・外注・経理代行の選び方
経理代行から内製化するタイミングを判断する5つの基準
1.社内に経理業務を担当できる人がいる
経理担当者の採用は、内製化を考える一つのきっかけになります。ただし、担当者が加わったことと、経理を社内だけで安定して回せることは別です。
入社した担当者は、会計ソフトや業務システムの操作だけでなく、会社独自の請求・支払の流れや、取引先ごとの処理方法も覚えなければなりません。
入社直後から記帳、請求、支払、月次決算をすべて任せると、新しい担当者へ業務が集中します。最初は社内窓口や内容確認を担当してもらい、業務への理解が深まってから担当範囲を広げる方が、本人にとっても会社にとっても安心でしょう。
2.月次決算の流れが安定している
内製化の前に確認したいのが、毎月の経理がどのような順番で進んでいるかです。
証憑や請求書を集め、不明な取引を確認し、会計ソフトへ入力する。その後、預金や売掛金などの残高を確認し、必要な修正を反映して月次資料を作成します。
この流れが毎月大きく変わったり、月次決算の完了日が安定しなかったりする場合は、まだ移行の準備が整っていない可能性があります。
担当者を変える前に、締切や役割分担を整理し、同じ流れで月次決算を終えられる状態にしておくことが大切です。
3.処理ルールと業務マニュアルが整っている
経理代行が行っていた業務を社内へ移すには、担当者が処理方法を確認できる資料が必要です。
とはいえ、最初から分厚いマニュアルを作る必要はありません。月次スケジュール、担当者、確認項目、よくある取引の処理方法をまとめるだけでも、引き継ぎは進めやすくなります。
最低限、次の内容を社内で確認できるようにしておきましょう。
- 証憑の提出方法と保存場所
- 会計ソフトへの入力ルール
- 勘定科目や補助科目の使い方
- 請求書の発行手順
- 支払までの確認・承認手順
- 不明な取引があった場合の確認先
- 月末に確認する残高
- 月次資料の作成方法
- 毎月の担当者と締切
マニュアルがないまま業務を渡すと、分からないことが起きるたびに経理代行へ確認することになり、内製化がなかなか進みません。
4.社内に確認・承認を行う人がいる
経理には、作業を担当する人だけでなく、その内容を確認し、必要な判断をする人も欠かせません。
一人の担当者が入力から確認、承認まで行うと、間違いがあっても自分では気付きにくくなります。特に、支払内容、新しい取引の会計処理、売掛金や買掛金の残高、月次資料の大きな増減などは、別の人が確認できる体制が望ましいでしょう。
社内に確認できる人がいない場合は、日常的な作業だけを内製化し、月次決算の確認や複雑な会計処理の相談は外部へ残す方法もあります。
5.担当者が休んでも業務を続けられる
内製化を考えるとき、つい「今の担当者ができるかどうか」に目が向きがちです。しかし、担当者が休んだ日や退職した後も業務を続けられるかどうかは、同じくらい大切です。
データの保存場所や月次スケジュールを共有し、アカウントや権限は会社側で管理します。担当者不在時の対応者を決めておくほか、繁忙期や退職時には経理代行へ一部の業務を戻せる体制を残しておく方法もあります。
一人の経験や記憶だけに頼らないことが、安定した内製化につながります。
経理業務が一人に集中するリスクと、その解消方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理の属人化を解消する方法
売上や従業員数だけで内製化の時期は決められない
「売上がいくらになったら内製化すべきか」「従業員が何人になったら経理担当者を採用すべきか」と気になる方もいるでしょう。
しかし、内製化に一律の売上高や従業員数の基準はありません。
同じ売上規模でも、取引件数が少なく、毎月の処理が定型化されている会社であれば、外部委託を続けやすいでしょう。一方、規模が小さくても、部門間の確認が多い会社や、複雑な契約・取引が頻繁に発生する会社では、社内に経理担当者がいた方が業務を進めやすい場合があります。
判断するときは、次のような点をまとめて確認します。
- 毎月の取引件数
- 経理業務にかかる時間
- 月次決算の完了時期
- 社内で確認や判断が必要な事項の多さ
- 経理担当者へ集中している業務量
- 現在の外注費
- 採用後の人件費や教育費
- 担当者不在時の代替体制
「何人になったら」「売上がいくらになったら」と考えるよりも、社内で行った方がよい業務がどの程度増えているかを見る方が、実態に合った判断ができます。
内製化を急がない方がよい会社の状態
経理担当者を採用できても、すぐに経理代行を終了しない方がよい場合があります。
例えば、新しい担当者へ業務が集中し、日々の処理だけで手いっぱいになっている状態です。経理代行が行っていた業務をまとめて渡すと、残高確認や月次資料の作成まで手が回らなくなることもあります。
仕訳ルールや資料の保存場所を経理代行しか把握していない場合も、先に情報を整理しなければなりません。会計データだけでなく、なぜその処理をしているのか、判断に迷ったときは誰へ確認するのかまで引き継ぐ必要があります。
月次決算が遅れている会社では、担当者を変更する前に、まず遅れの原因を解消した方がよいでしょう。未処理事項を抱えたまま移行すると、新しい担当者が過去の確認と当月の処理を同時に行うことになります。
費用を減らすために内製化を急ぐケースもありますが、担当者の退職や繁忙期に業務が止まってしまえば、採用や再度の引き継ぎに大きな負担がかかります。目先の外注費だけでなく、経理を継続して回せるかという視点も必要です。
経理代行から内製化する6つの移行手順
1.現在の業務を一覧にする
最初に、経理代行が担当している業務を洗い出します。
「記帳」「請求書発行」といった業務名だけではなく、いつ行うのか、どのシステムを使うのか、誰が内容を確認しているのかまで書き出すと、実際の負担が見えやすくなります。
| 業務 | 現在の担当 | 実施時期 | 使用システム | 確認者 |
|---|---|---|---|---|
| 証憑回収 | 会社・経理代行 | 随時 | 共有フォルダ | 社内担当者 |
| 記帳 | 経理代行 | 毎週 | 会計ソフト | レビュー担当者 |
| 請求書発行 | 経理代行 | 月末 | 請求システム | 営業責任者 |
| 支払準備 | 経理代行 | 月2回 | インターネットバンキング | 代表者 |
| 残高確認 | 経理代行 | 月次 | 会計ソフト | 社内責任者 |
| 月次資料 | 経理代行 | 翌月 | 表計算ソフト | 経営者 |
一覧にすると、社内へ戻しやすい業務と、しばらく外部へ残した方がよい業務を分けやすくなります。
2.社内へ戻す業務を決める
最初は、社内で取引内容を把握しやすい業務から移すと進めやすくなります。
証憑の回収、請求内容の確認、売掛金の入金確認などは、社内の担当者だからこそ状況を確認しやすい業務です。
一方、仕訳ルールが複雑な業務や、判断に経験が必要な処理は、無理に移さず外部へ残す選択肢もあります。
3.マニュアル・データ・権限を引き継ぐ
業務を移す前に、必要な資料やデータをそろえます。
業務マニュアル、月次スケジュール、仕訳ルール、会計データ、使用している帳票、不明取引の一覧、過去の質問と回答などです。
システムについては、経理代行が使っていた共有IDをそのまま渡すのではなく、社内担当者用のアカウントを発行します。必要な権限を設定し、退職や担当変更があったときに会社側で変更できるようにしておきます。
4.社内担当者と経理代行で並行運用する
引き継ぎを始めたからといって、経理代行の作業をすぐに止める必要はありません。
一定期間は、社内担当者が作業を行い、経理代行が内容を確認する方法があります。例えば、社内担当者が仕訳を入力し、経理代行が残高や処理ルールを確認し、月次数値の最終承認は会社側が行う流れです。
ただし、どのような支援を受けられるかは、委託先との契約によって異なります。移行前に、並行運用の期間や確認範囲、追加で発生する作業を相談しておきましょう。
5.月次決算を一通り経験する
内製化できるかどうかは、一部の作業を行っただけでは判断できません。
月初から月次決算の完了までを社内担当者が経験し、資料を期限までに集められたか、不明取引を解消できたか、残高確認と月次資料の作成まで行えたかを確認します。
一度うまくいっても、繁忙月や担当者の休暇が重なると状況が変わることがあります。可能であれば複数月運用し、無理なく続けられることを確認してから外注範囲を縮小します。
6.外注を続ける業務と終了する業務を決める
並行運用が終わったら、改めて役割分担を見直します。
社内で安定して行える業務は内製化し、専門性が必要な業務や、繁忙期に負担が大きくなる業務は外部へ残します。
経理代行との契約を終了する場合は、会計データや資料の返却、アカウントの削除、未処理事項、最終成果物、契約終了後の問い合わせ期間も確認が必要です。
将来の内製化まで見据えた経理代行の選び方については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:成長企業が経理代行を選ぶときに確認したい7つのポイント
内製化後も経理代行を残すハイブリッド型という選択肢
内製化を進めても、すべての業務を社内へ戻す必要はありません。
記帳、請求書の発行作業、支払データの作成、証憑の整理など、毎月繰り返す定型業務は外部へ残し、社内担当者が内容の確認や部門との調整、経営資料の作成に集中する方法があります。
会社の体制によっては、次のような支援を残すことも考えられます。
- 記帳などの定型業務
- 月次資料や残高の確認支援
- 繁忙期の業務サポート
- 担当者不在時の代替対応
- マニュアルや業務手順の更新
- 複雑な会計処理を専門家へ確認するための連携
完全に契約を終了するのではなく、必要な業務だけを残すことで、社内担当者の負担や退職リスクに備えられます。
対応できる業務や契約方法は委託先によって異なるため、内製化を始める前に相談しておくとよいでしょう。
複雑な会計処理がある会社では、日常業務を内製化しつつ、例外的な取引は適切な確認先へつなげられる流れを残すことも大切です。
合わせて読みたい:複雑な会計処理がある会社の経理代行|例外取引を管理する7つの方法
公認会計士の視点|内製化は人を採用することではなく、仕組みを移すこと
経理の内製化で本当に必要なのは、担当者を採用することだけではありません。
外部が行っていた業務の流れ、処理ルール、データ、確認方法を、会社側でも管理できるようにすることです。
担当者を採用できても、経理代行しか処理方法を知らない状態では、業務を社内へ戻せません。反対に、業務が整理され、マニュアルや確認体制が整っていれば、一部の作業から少しずつ移せます。
会社の規模が大きくなったからといって、すぐに経理代行を終了する必要はありません。社内で行う方がよい業務と、外部へ任せた方が安定する業務を見極めながら、無理のない形へ変えていくことが大切です。
将来の内製化に協力してくれる委託先を選ぶことは、契約後の選択肢を狭めないことにもつながります。業務を囲い込むのではなく、会社の成長や採用状況に合わせて役割を見直せる関係の方が、長く安心して利用しやすいでしょう。
よくある質問
Q1.売上や従業員がどのくらいになったら内製化すべきですか?
一律の売上高や従業員数だけで決めることはできません。
取引件数、月次決算に必要な時間、社内で確認すべき事項の多さ、経理担当者の業務量、外注費と人件費などを踏まえて判断します。
売上規模が大きくても定型業務が中心なら外部委託を続けやすく、規模が小さくても部門調整や複雑な取引が多ければ、社内担当者が必要になる場合があります。
Q2.経理担当者を採用したら、すぐに経理代行をやめてもよいですか?
すぐに終了する必要はありません。
まずは新しい担当者が現在の業務を把握し、一定期間は経理代行と並行して運用します。月次決算まで無理なく行えることを確認した後、外注範囲を少しずつ縮小する方が安心です。
Q3.内製化にはどのくらいの期間がかかりますか?
現在の業務量、マニュアルの有無、担当者の経験、月次決算の状況によって異なります。
証憑回収、請求、記帳、月次決算など、業務ごとに移行期間を設けると進めやすくなります。
Q4.一部の業務だけ経理代行へ残せますか?
契約内容によっては可能です。
記帳や請求書発行などの定型業務は外部へ残し、社内担当者が取引内容の確認や承認を行う方法があります。対応できる業務や料金については、委託先へ確認してください。
Q5.内製化すると経理の費用は安くなりますか?
外注費は減る可能性がありますが、採用費、人件費、システム費用、教育や引き継ぎにかかる時間も発生します。
費用だけでなく、経理業務の品質と継続性も含めて判断する必要があります。
Q6.内製化後に担当者が退職した場合はどうすればよいですか?
マニュアル、月次スケジュール、データの保存先、アカウントを会社側で管理しておくと、次の担当者へ引き継ぎやすくなります。
退職や休職への備えとして、一部の業務を経理代行へ残しておく方法もあります。
まとめ
経理代行から内製化するタイミングは、売上高や従業員数だけでは決められません。
社内に業務を担当できる人がいるか、月次決算の流れが安定しているか、処理ルールやマニュアルが整っているかを確認します。社内に確認・承認を行う人がいることや、担当者が休んでも業務を続けられることも欠かせません。
内製化は、経理代行へ任せている業務をすべて一度に社内へ戻すことではありません。現在の業務を整理し、社内へ移しやすいものから少しずつ引き継ぎます。
一定期間は経理代行と並行して運用し、月次決算まで無理なく続けられることを確認してから次へ進む方が、業務を止めずに移行できます。
また、記帳などの定型業務や繁忙期のサポートを外部へ残し、社内担当者が確認や判断に集中する方法もあります。会社の成長や採用状況に合わせ、社内と外部の役割を柔軟に見直していくことが大切です。
経理代行の料金は、残す業務の範囲や取引件数、月次決算・残高確認の有無などによって変わります。費用の目安や料金の内訳については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
経理代行サブスクサービス「まるまる経理」では、記帳、証憑管理、売掛金・買掛金管理、月次決算作業、月次資料の整備、業務マニュアル作成などを、プランおよび契約範囲に応じて支援します。
社内に経理担当者を採用した後も、すべての業務をすぐに切り替える必要はありません。現在の経理業務や社内体制を伺い、会社側に残す業務と外部へ任せる業務を整理します。
「経理担当者を採用したものの、どこまで社内へ移せるか分からない」「現在の経理代行を続けるべきか迷っている」といった段階でも、お気軽にお問い合わせください。
