「新しいサービスを始めたが、売上をいつ計上すればよいか分からない。」
「資金調達やM&Aに関する取引が発生し、通常の仕訳ルールでは処理できなくなった。」
事業が成長すると、これまでの仕訳ルールや業務マニュアルだけでは処理方法を決められない取引が増えることがあります。
このような取引が発生したとき、経理担当者や経理代行会社がその場で処理方法を判断すると、担当者によって仕訳が変わったり、必要な確認が行われないまま月次決算が完了したりする可能性があります。
一方、すべての判断が終わるまで処理を止めると、月次決算や経営資料の作成が遅れてしまいます。
複雑な会計処理がある会社では、定型的な経理業務と、追加の確認や判断が必要な取引を分けて管理することが重要です。
本記事では、既存の仕訳ルールや業務マニュアルだけでは処理方法を決められず、追加の確認や判断が必要な取引を、実務上の管理区分として「例外取引」と呼びます。
「例外取引」は、会計基準上の正式な用語ではありません。
この記事では、複雑な会計処理がある会社が経理代行を利用するときに、例外取引を止めずに管理する7つの方法を解説します。
資金調達、IPO準備、M&A、子会社の増加など、会社の成長に伴って必要となる経理体制の全体像については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:成長企業の経理体制|資金調達・IPO準備・子会社の増加に対応する方法
複雑な会計処理が発生しやすい取引
会社の規模が小さい段階では、売上、仕入、経費、給与、預金など、日常的な取引が経理業務の中心になります。
事業が成長すると、次のような取引が増えることがあります。
- 新しい収益モデルや長期契約
- 前受金や複数年度にわたる契約
- 新規借入や借換え
- 株式や新株予約権による資金調達
- 高額な設備投資
- 補助金や助成金
- 外貨建て取引
- M&Aに関連する支出
- 子会社や関連会社への投資
- グループ内取引
- 連結決算に関する処理
これらの取引は、契約内容、取引の実態、金額的重要性、適用する会計・税務上の取扱いなどによって処理が変わる場合があります。
取引名だけを見て、過去の仕訳をそのまま当てはめることはできません。
資金調達を予定している会社では、借入や増資の処理だけでなく、月次決算、資金繰り、予実管理、説明資料なども整える必要があります。
資金調達前に準備したい経理業務については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:資金調達前に整えたい経理体制|月次決算・資金繰り・予実管理の準備
M&A後には、取得した会社の会計ソフト、勘定科目、締切、承認方法などが既存のグループと異なる場合があります。
M&A成立後の日常経理を安定させ、段階的に統合する方法については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:M&A後の経理統合とは?日常業務を整える7つのポイント
複雑な会計処理があっても経理代行は利用できる
複雑な取引があるからといって、すべての経理業務を社内で行う必要はありません。
定型的な業務と、追加の判断が必要な業務を分けることで、経理代行を利用できます。
例えば、次のような役割分担が考えられます。
| 業務 | 主な担当例 |
|---|---|
| 証憑の回収・整理 | 社内担当者・経理代行 |
| 会計ソフトへの入力 | 経理代行 |
| 預金や売掛金などの残高確認 | 社内担当者・経理代行 |
| 取引内容や契約条件の説明 | 取引担当者・部門責任者 |
| 会計上の処理の検討 | 経理責任者・公認会計士 |
| 税務上の処理の確認 | 税理士 |
| 社内ルールや重要性の判断 | 経理責任者・管理部長・CFOなど |
| 最終的な承認 | 経営者・社内の権限者 |
経理代行会社が定型業務を担当する場合でも、取引内容の判断、重要な承認、経営方針の決定まで外部へ移すわけではありません。
会社側は、取引内容を説明する担当者、判断結果を確認する責任者、最終的に承認する権限者を決めます。
経理代行へ依頼できる一般的な業務内容と、導入までの流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
例外取引を管理する7つの方法
1.例外取引の判定基準を決める
最初に、どのような取引を通常処理から外し、追加確認の対象とするかを決めます。
例えば、次のような取引です。
- 過去に同様の取引がない
- 契約内容だけでは売上や費用の計上時期を判断できない
- 既存の勘定科目や仕訳ルールへ当てはめられない
- 一定金額以上の取引
- 複数年度に影響する取引
- 関係会社や役員などとの取引
- 新しい借入、増資、設備投資
- 法務・会計・税務上の確認が必要な取引
- 月次決算後に修正が発生する可能性が高い取引
「担当者が迷った取引をすべて例外とする」だけでは、判断基準が曖昧になります。
取引の種類、金額、契約期間、取引相手、過去の処理実績などを基準にします。
ただし、最初からすべての例外を予測することはできません。
運用を始めた後に新しい事例が発生した場合は、判定基準へ追加します。
2.例外取引を一覧で管理する
例外取引が発生したら、メールやチャットだけで確認を進めるのではなく、管理表へ登録します。
管理表には、少なくとも次の項目を設けます。
- 取引内容
- 判断が必要な事項
- 現在の状況
- 確認先
- 回答期限
- 仮処理の内容
- 最終的な処理結果
- 反映日
- 承認者
管理表の記載例は、次のとおりです。
| 取引内容 | 判断事項 | 状況 | 確認先 | 期限 | 処理結果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 新サービス契約 | 売上の計上時期 | 契約内容確認中 | 営業責任者・経理責任者 | 8月5日 | 未処理 |
| 高額な設備購入 | 資産計上の範囲 | 資料不足 | 現場責任者・経理責任者 | 8月6日 | 仮勘定で処理 |
| 新規借入 | 手数料等の会計・税務処理 | 専門家確認中 | 経理責任者・公認会計士・税理士 | 8月8日 | 仮処理済み |
| M&A関連費用 | 支出内容ごとの処理 | 専門家確認中 | 経理責任者・公認会計士・税理士 | 8月9日 | 仮処理済み |
管理表を作る目的は、複雑な取引をすべて経理担当者が判断することではありません。
誰が、何を確認し、いつまでに回答するかを見える状態にすることです。
一覧がないと、月次決算の直前になって未処理の取引が見つかったり、専門家へ質問したまま回答が反映されなかったりする可能性があります。
3.判断に必要な資料をひも付ける
例外取引を管理表へ登録するだけでは、判断に必要な情報が不足することがあります。
取引ごとに、次のような資料をひも付けます。
- 契約書
- 見積書
- 請求書
- 稟議書
- 取締役会や社内会議の議事録
- 支払条件が分かる資料
- 取引の目的や背景を記載した説明
- 相手方とのメールや確認記録
- 専門家へ提出した質問内容
- 専門家から受け取った回答
資料は、担当者個人のメールやパソコンだけに保存しないようにします。
管理表に保存先のURLやフォルダ名を記載し、担当者が変わっても確認できる状態にします。
取引の名称だけでは、会計処理を判断できない場合があります。
例えば、「業務委託契約」と記載されていても、契約期間、成果物、検収条件、返金条件などによって確認事項が変わります。
取引を実際に担当した部署から、契約の内容と取引の実態を確認することが重要です。
4.判断先と承認者を決める
例外取引が発生するたびに確認先を探していると、回答までに時間がかかります。
判断内容ごとに、主な確認先を決めます。
| 判断内容 | 主な確認先 |
|---|---|
| 取引の事実・契約内容 | 取引担当者・部門責任者 |
| 社内ルール・金額的重要性 | 経理責任者・管理部長・CFOなど |
| 会計上の処理 | 経理責任者・公認会計士 |
| 税務上の処理 | 税理士 |
| 法務上の判断 | 弁護士 |
| 最終的な処理の承認 | 経営者・社内の権限者 |
CFOを置いていない中小企業では、経理責任者、管理部長、代表者などが、社内ルールや金額的重要性を判断する場合があります。
また、一つの取引で複数の確認が必要になることもあります。
新規借入に伴う手数料について、会計上の処理と税務上の処理の両方を確認する場合は、税理士だけに限定せず、経理責任者、公認会計士、税理士などへ役割を分けて確認します。
誰に質問するかだけでなく、誰が回答を確認し、最終的な処理を承認するかも決めます。
専門家から回答を受け取っても、社内の承認者が決まっていなければ、実務へ反映できない可能性があります。
5.判断が完了するまでの仮処理を管理する
専門家や社内責任者への確認には、時間がかかる場合があります。
回答が出るまで取引を未処理のままにすると、預金残高や支払金額が帳簿と一致せず、月次決算を進められないことがあります。
そのため、判断が完了するまでの仮処理を決めます。
例えば、次の方法があります。
- 仮払金や仮受金などの仮勘定で処理する
- 現時点で合理的と考えられる科目で暫定処理する
- 月次決算資料へ未確定事項として記載する
- 金額への影響を別表で管理する
- 回答後に修正仕訳を入力する
仮処理を行う場合は、通常処理と区別できるようにします。
仕訳の摘要、補助科目、タグ、管理表などを使い、後から対象取引を抽出できる状態にします。
仮処理のまま放置すると、翌月以降も誤った残高が残る可能性があります。
管理表には、確認期限だけでなく、仮処理を修正する期限も記載します。
6.決定した処理を実務へ反映する
判断が完了したら、管理表の状況を「回答済み」に変えるだけでは不十分です。
次の内容へ反映します。
- 会計ソフトの仕訳
- 月次決算資料
- 残高明細
- 税務申告に使用する資料
- 資金繰り表
- 予算と実績の比較資料
- 経理代行会社への処理指示
- 社内の業務マニュアル
- 自動仕訳や登録ルール
- 翌月以降のチェックリスト
同様の取引が今後も発生する場合は、例外取引として毎回確認するのではなく、通常処理へ移せるかを検討します。
判断結果を経理担当者や経理代行会社へ共有し、次回から同じ基準で処理できる状態にします。
ただし、取引条件が変わった場合まで同じ処理を自動的に適用しないようにします。
契約期間、金額、取引相手、提供内容など、再確認が必要となる条件もあわせて記録します。
IPO準備中の会社では、処理結果だけでなく、誰が作成し、誰が確認し、誰が承認したかを説明できる状態が重要です。
IPO準備中に経理代行へ任せられる業務と、社内に残すべき業務については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:IPO準備企業は経理代行をどこまで利用できる?社内に残す業務と役割分担
7.判断内容と修正履歴を保存する
例外取引については、最終的な仕訳だけでなく、判断までの過程を保存します。
少なくとも次の内容を残します。
- 当初の処理
- 判断が必要になった理由
- 確認した資料
- 質問した相手
- 質問内容
- 回答内容
- 最終的に採用した処理
- 承認者
- 修正仕訳
- 実務へ反映した日
- マニュアルやルールの変更内容
回答メールを保存するだけでは、何について質問し、どの取引へ適用したのか分からなくなる場合があります。
管理表と証憑、質問内容、回答、仕訳を結び付けます。
判断履歴を残すことで、担当者が変わった場合も、同じ確認を繰り返さずに済みます。
また、月次決算後に仕訳を修正した場合は、修正前後の内容と理由を残します。
後から帳簿を確認した際に、なぜ数字が変わったのかを説明できる状態にします。
例外取引の管理で起こりやすい5つの失敗
経理担当者が一人で判断する
経験のある経理担当者でも、取引の事実、契約内容、会計、税務、法務のすべてを一人で判断することは困難です。
判断内容に応じて、取引担当者、社内責任者、専門家へ確認します。
専門家へ質問したまま処理へ反映しない
回答を受け取っても、管理表や仕訳へ反映されなければ、経理実務は変わりません。
回答者、社内確認者、仕訳の修正担当者を分けて管理します。
判断が終わるまで未処理のままにする
未処理の取引が増えると、預金残高や費用の金額が確定せず、月次決算が遅れます。
仮処理を行い、未確定事項として管理します。
仮処理を翌月以降も残す
仮勘定の残高が増えると、どの取引が未確定なのか分からなくなります。
仮処理には必ず確認期限と修正期限を設定します。
判断結果を担当者の記憶だけに残す
口頭やチャットだけで共有すると、担当者の退職や委託先の変更によって処理方法が分からなくなります。
管理表、マニュアル、証憑、仕訳を結び付けて保存します。
公認会計士の視点|複雑な取引を止めない仕組みをつくる
複雑な会計処理がある会社で大切なのは、すべての取引を経理代行会社や専門家へ丸投げすることではありません。
日常的な証憑整理、記帳、残高確認などは、社内担当者や経理代行会社が進めます。
追加判断が必要な取引だけを抽出し、取引担当者、経理責任者、公認会計士、税理士、弁護士などへ確認します。
そのうえで、回答が出るまでの仮処理、回答後の修正、翌月以降のルールへの反映まで管理します。
重要なのは、複雑な取引が発生しないようにすることではありません。
複雑な取引が発生しても、月次決算を止めず、必要な人へ確認し、判断内容を実務へ反映できる仕組みをつくることです。
よくある質問
Q1.複雑な会計処理がある会社でも経理代行を利用できますか?
利用できる場合があります。
証憑整理、記帳、残高確認、月次資料の作成などの定型業務と、追加判断が必要な取引を分けることが重要です。
判断が必要な取引については、会社側の担当者や公認会計士、税理士などへ確認し、経理代行会社へ処理方法を共有します。
Q2.例外取引はどのくらいの金額から管理すべきですか?
一律の金額基準はありません。
会社の規模、月次業績への影響、契約期間、取引相手、過去の処理実績などを踏まえて決めます。
金額が小さくても、役員や関係会社との取引、新しい契約、法務上の確認が必要な取引などは、管理対象とする場合があります。
Q3.専門家へ確認している間は、仕訳を入力しなくてもよいですか?
未処理のままでは月次決算が進まない場合があります。
仮勘定や暫定的な科目を使用し、後から抽出できる形で仮処理する方法があります。
回答後に修正する期限と担当者も決めます。
Q4.例外取引の管理表は誰が更新しますか?
管理表の更新担当者を一人決めます。
ただし、取引内容の説明、専門家への質問、処理の承認、仕訳の修正は、それぞれ適切な担当者へ分けます。
経理代行を利用する場合は、会社側と経理代行会社のどちらが管理表を更新するかを契約や業務手順で明確にします。
Q5.一度判断した取引は、次回も同じ処理でよいですか?
契約内容や取引条件が同じであれば、通常処理としてルール化できる場合があります。
ただし、金額、契約期間、提供内容、取引相手などが変わった場合は、再確認が必要になることがあります。
どの条件が変わったら再確認するかも、判断履歴とあわせて残します。
まとめ
複雑な会計処理がある会社では、通常の仕訳ルールだけでは処理できない取引を、例外取引として分けて管理することが重要です。
例外取引を管理するときは、次の7つを確認します。
- 例外取引の判定基準を決める
- 例外取引を一覧で管理する
- 判断に必要な資料をひも付ける
- 判断先と承認者を決める
- 判断が完了するまでの仮処理を管理する
- 決定した処理を実務へ反映する
- 判断内容と修正履歴を保存する
経理代行を利用する場合も、会社側が取引内容を説明し、重要な判断や承認を行う役割は残ります。
定型的な業務と例外取引を分け、経理代行会社、社内担当者、専門家が連携できる流れを整えることが大切です。
経理代行の料金は、依頼する業務範囲、取引件数、仕訳件数、月次決算や残高確認の有無などによって異なります。
経理代行の料金相場と費用の内訳については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
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