中小企業の経理体制には、すべての会社に共通する正解があるわけではありません。
創業直後は社長や事務担当者が経理を兼務できても、会社の成長によって取引件数や従業員数が増えれば、これまでと同じ体制では業務を処理しきれなくなる場合があります。
経理体制を考える際は、「採用するか、外注するか」という二択だけで判断しないことが重要です。
社内に担当者を置く方法、外部へ委託する方法、社内と外部で役割を分担する方法があり、会社の成長段階や業務内容に合わせて組み合わせることもできます。
この記事では、中小企業の経理体制を設計する際の考え方、採用・外注・併用の特徴、会社の成長段階に応じた体制のつくり方を解説します。
なお、本記事では、記帳など一部業務の委託から、日常的な経理業務を継続して任せる経理代行までを、広く「外部委託」として整理します。
経理体制を考える前に現在の業務を整理する
経理体制を決める前に、現在の業務内容と負担を整理します。
最初に確認したいのは、次の項目です。
- 誰が経理業務を担当しているか
- 毎月どのような業務が発生しているか
- それぞれの業務に何時間かかっているか
- 月末や月初に業務が集中していないか
- 特定の担当者しか分からない業務がないか
- 月次資料がいつ完成しているか
- 将来、取引件数や従業員数が増える予定があるか
「人が足りないから採用する」と考える前に、現在の業務を分解することが大切です。
業務の中には、社内で判断すべきものと、手順を決めれば外部へ委託できるものがあります。
例えば、支払いの最終承認や経営判断は社内で行い、記帳や支払予定表の作成は外部へ委託するなど、役割を分けることができます。
中小企業の経理体制には3つの基本モデルがある
経理体制は、大きく分けると次の3つです。
- 社内で経理担当者を採用する
- 経理業務を外部へ委託する
- 社内担当者と外部サービスを併用する
それぞれの特徴を理解し、自社の状況に合わせて選びます。
1.社内で経理担当者を採用する
正社員やパート・アルバイトを採用し、社内で経理業務を行う方法です。
社内に担当者がいるため、日常的な確認や他部署との連携を行いやすくなります。
また、長期的に勤務すれば、会社独自のルールや取引先ごとの対応方法を理解してもらいやすくなります。
一方で、次の点を考慮する必要があります。
- 経理経験者を採用できるか
- 採用後に教育できるか
- 一人の担当者へ業務が集中しないか
- 退職・休職時に代わりの人がいるか
- 継続的に一人分の業務量があるか
経理部門を社内で育成したい会社や、社内での確認や調整が多い会社では、採用が向いている場合があります。
2.経理業務を外部へ委託する
記帳、請求書管理、入金確認、支払準備、給与計算、月次資料の作成などを外部へ委託する方法です。
実際に依頼できる業務は、委託先や契約内容によって異なります。
外注では、経理担当者を採用せずに必要な業務を依頼できるため、採用が難しい会社や、一人分の業務量に満たない会社にとって選択肢になります。
ただし、外注しても会社側には次のような業務が残ります。
- 必要資料の提出
- 取引内容への回答
- 請求内容の決定
- 支払いの最終承認
- 振込実行
- 月次資料の確認
- 経営判断
また、給与計算、年末調整に伴う税務書類の作成、社会保険手続きなどは、業務ごとに対応範囲や必要な資格が異なります。委託先がどこまで対応できるか、誰が担当するかを契約前に確認しましょう。
外部へ委託する場合は、何を任せ、何を社内に残すのかを明確にすることが重要です。
経理代行で依頼できる業務や導入の流れについては、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
3.社内担当者と外部サービスを併用する
採用と外注を組み合わせ、社内と外部で役割を分担する方法です。
例えば、次のような体制があります。
| 社内で行う業務 | 外部へ依頼する業務 |
|---|---|
| 取引内容の確認 | 記帳 |
| 請求金額の決定 | 請求書の作成 |
| 支払いの最終承認 | 支払予定表・振込データの作成 |
| 振込実行 | 入金状況の整理 |
| 従業員情報の確定 | 給与計算 |
| 月次資料の確認 | 月次資料の作成支援 |
| 経営判断 | 証憑やデータの整理 |
社内担当者は、取引内容の確認、社内調整、承認、経営者への報告を担当します。
外部サービスは、手順を決めやすい定型業務や、専門的な処理を担当します。
併用することで、社内の判断機能を残しながら、入力や資料作成の負担を減らせます。
社内担当者が退職した場合でも、委託先と業務一覧や運用ルールが共有されていれば、経理業務が完全に止まるリスクを抑えやすくなります。
採用と外注の年間コストやメリット・デメリットを詳しく比較したい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理を採用する?外注する?年間コスト・メリット・デメリットを比較
会社の成長段階に応じて経理体制を考える
経理体制は、一度決めたら変えないものではありません。
会社の成長によって業務量や求められる管理水準が変われば、経理体制も見直します。
創業期・小規模な段階
創業直後は、社長や事務担当者が経理を兼務することがあります。
取引件数が少ない間は対応できても、社長が日常的な入力や資料整理まで行うと、営業や事業開発に使う時間が減る可能性があります。
この段階では、次のような体制を検討できます。
- 社長が重要な判断と承認を行う
- 事務担当者が資料を集める
- 記帳などの定型業務を外部へ委託する
- 税理士と連携して税務対応を行う
最初から経理担当者を一人採用するのではなく、必要な業務だけを外部へ委託する方法もあります。
成長期
取引先や従業員が増えると、請求書、支払い、経費精算、給与計算などの件数も増えます。
また、社内からの問い合わせや承認も増えるため、経理業務の調整役が必要になります。
この段階では、次のような体制が選択肢になります。
- 社内に経理担当者を採用する
- 社内担当者と経理代行を併用する
- 日常的な処理を外部へ委託し、社内担当者が確認する
- 月次締めや資料提出のルールを整える
社内と外部を併用する場合は、どちらが作業し、どちらが確認・承認するかを業務ごとに決めます。
業務が複雑化する段階
事業や拠点、部門が増えると、単に処理件数が増えるだけでなく、管理すべき項目も増えます。
例えば、次のような対応が必要になります。
- 部門別の数値管理
- 複数拠点の資料回収
- 複数口座や複数カードの管理
- 売掛金・買掛金の詳細管理
- 月次決算の早期化
- 経営資料の作成
- 経理担当者間の役割分担
この段階では、社内に経理責任者を置き、定型業務や処理量の多い業務を外部へ委託する方法があります。
会社の数字を理解し、経営者や各部門と調整する機能は社内に残し、作業部分を外部で補完する体制です。
経理体制を考える5つのポイント
1.現在と将来の業務量
現在の仕訳件数や請求書件数だけでなく、今後の事業計画も確認します。
- 取引先が増える予定がある
- 従業員を採用する予定がある
- 新しい拠点を開設する
- 新規事業を始める
- 給与計算の対象者が増える
現在の業務量だけで体制を決めると、短期間で見直しが必要になる場合があります。
経理担当者が何人必要かを考える際の目安については、以下の記事も参考になります。
合わせて読みたい:経理担当者は何人必要?従業員数別の目安と経理体制を解説
2.社内に残す判断と承認
すべての経理業務を、同じ人や同じ会社へ任せる必要はありません。
まず、会社側に残すべき判断と承認を整理します。
- 取引条件の決定
- 請求金額の確定
- 支払いの最終承認
- 振込実行
- 投資や借入れの判断
- 月次資料の確認
- 経営判断
そのうえで、記帳や資料作成など、手順を決めて任せられる業務を切り分けます。
3.採用できるか、育成できるか
採用を選ぶ場合は、求人を出せば終わりではありません。
次の点を確認する必要があります。
- 必要な経験を持つ人材を採用できるか
- 自社の業務を教える担当者がいるか
- 入社後の確認体制があるか
- 将来的な役割や評価基準を示せるか
- 長く働ける環境を整えられるか
採用活動が難航している場合は、採用条件だけでなく、業務の切り分けや外注の活用も検討します。
合わせて読みたい:経理が採用できない原因とは?中小企業が取るべき対策
4.担当者が不在でも業務を続けられるか
経理担当者が一人だけの場合、退職や休職によって業務が止まる可能性があります。
採用か外注かにかかわらず、次の準備が必要です。
- 業務一覧を作る
- 手順書を整える
- 資料の保存場所を統一する
- システムの管理者を明確にする
- 代理対応者を決める
- 外部の支援先を確保する
経理担当者が退職・休職した場合の経理代行の活用方法については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経理担当者が退職・休職したとき、経理代行は使える?対応範囲を解説
5.年間コストと得られる効果
経理体制の費用を比較する際は、人件費や月額料金だけを見ないことが重要です。
採用では、給与、会社負担の社会保険料、採用費、教育費、退職時の再採用負担などが発生します。
外注では、月額料金、初期費用、追加料金、システム利用料などを確認します。
ただし、具体的な年間コストの比較は、業務量や依頼範囲によって異なります。
経理代行の料金相場や費用の内訳については、以下の記事でも解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
社内と外部の役割分担を決める方法
経理体制を設計する際は、業務ごとに「作業」「確認」「承認」を分けると整理しやすくなります。
| 業務 | 作業 | 確認 | 最終承認・判断 |
|---|---|---|---|
| 記帳 | 社内または外部 | 社内担当者・責任者 | 必要に応じて責任者 |
| 請求書作成 | 社内または外部 | 営業・担当部署 | 会社側 |
| 入金確認 | 社内または外部 | 社内担当者 | 会社側 |
| 支払予定表作成 | 社内または外部 | 社内担当者 | 会社側 |
| 振込データ作成 | 社内または外部 | 社内担当者 | 会社側が承認・実行 |
| 給与計算 | 社内または外部 | 人事・社内担当者 | 会社側 |
| 月次資料作成 | 社内または外部 | 社内責任者 | 経営者 |
外部へ委託する場合でも、会社側の確認者と承認者は必要です。
反対に、社内で経理担当者を採用する場合でも、作業と最終承認を同じ人へ集中させない方がよい業務があります。
経理担当者が長く働ける体制も考える
採用を選んでも、業務量や責任が一人へ集中すれば、担当者が定着しない可能性があります。
経理担当者が長く働くためには、次のような体制も必要です。
- 業務量が一人に偏っていない
- 質問や相談ができる相手がいる
- 休暇を取っても業務が止まらない
- 業務手順が整理されている
- 評価される役割が明確になっている
- 日常処理だけでなく改善にも取り組める
採用後の定着や退職防止については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理担当者が辞める理由とは?退職防止のためにできること
経理体制は定期的に見直す
会社の成長、事業内容、人員、システムが変われば、適した経理体制も変わります。
例えば、次のようなタイミングで見直します。
- 取引件数が増えた
- 従業員や拠点が増えた
- 経理担当者が退職・休職する
- 月次決算が遅くなった
- 社長や他部署の負担が増えた
- 新しいシステムを導入する
- 外注する業務を増減する
現在は外注が適していても、将来は社内に経理担当者を置いた方がよい場合があります。
反対に、社内担当者を採用した後でも、入力や給与計算などの一部を外部へ委託することで、担当者の負担を減らせる場合があります。
経理体制は固定するのではなく、会社の状況に合わせて調整するものと考えましょう。
公認会計士の視点|誰を配置するかより、役割をどう分けるかが重要
経理体制を考える際、「正社員を一人採用すれば解決する」「経理代行へ全部任せればよい」と考えてしまうことがあります。
しかし、実際には、誰を配置するかだけでは十分ではありません。
重要なのは、業務ごとに次の役割を明確にすることです。
- 誰が資料を準備するか
- 誰が処理を行うか
- 誰が内容を確認するか
- 誰が最終承認するか
- 問題が起きた場合に誰へ報告するか
採用した担当者へ、作業、確認、承認をすべて集中させれば、属人化や不正防止の課題が残ります。
外部へ委託しても、社内の確認担当者が決まっていなければ、質問への回答や承認が止まります。
採用、外注、併用のどれを選ぶ場合でも、作業と判断の役割を分け、担当者が変わっても業務を続けられる状態をつくることが大切です。
よくある質問
Q1. 中小企業では経理担当者を採用した方がよいのでしょうか?
会社の業務量や社内で必要な対応によって異なります。
経理業務量が継続的に多く、社内での確認や調整が多い会社では、採用が適している場合があります。
一方、一人分の業務量に満たない会社や、採用が難しい会社では、外注や併用も選択肢になります。
Q2. 経理担当者が一人だけでも問題ありませんか?
業務量によっては一人で対応できますが、退職、休職、長期不在によって業務が止まるリスクがあります。
業務一覧や手順書を整え、代理対応者や外部の支援先を確保することが重要です。
Q3. 採用と外注を併用できますか?
併用できます。
社内担当者が取引内容の確認、社内調整、承認を行い、記帳や月次資料の作成などを外部へ委託する方法があります。
会社の成長や業務量に合わせて、委託範囲を変更することもできます。
まとめ
中小企業の経理体制には、主に次の3つの方法があります。
- 社内で経理担当者を採用する
- 経理業務を外部へ委託する
- 社内担当者と外部サービスを併用する
経理体制を考える際は、採用か外注かという二択だけで判断するのではなく、次の点を整理することが大切です。
- 現在と将来の業務量
- 社内に残す判断と承認
- 採用と育成が可能か
- 担当者不在時も業務を続けられるか
- 年間コストと得られる効果
- 会社の成長段階
創業期は社長や事務担当者と外部サービスを組み合わせ、成長期には社内担当者と外部の役割を分けるなど、会社の状況に応じて体制を変更できます。
重要なのは、誰が経理を担当するかだけではありません。
業務ごとに作業、確認、承認の役割を明確にし、担当者が変わっても経理業務を続けられる体制をつくることです。
経理体制の見直しをご検討中の方へ
「採用、外注、併用のどれが自社に適しているか分からない」
「経理担当者へ業務が集中している」
「会社の成長に経理体制が追いついていない」
このようなお悩みをお持ちでしたら、まるまる経理へお問い合わせください。
現在の経理業務、社内の人員、今後の事業計画を確認したうえで、社内に残す業務と外部へ委託できる業務を整理し、会社の状況に合った経理体制をご提案します。
