経理業務が増えてくると、経理担当者を採用するべきか、外部へ委託するべきか迷うことがあります。
採用と外注は、どちらも経理体制を整えるための方法ですが、費用の発生方法や会社側に残る業務、退職リスクなどが異なります。
採用する場合は、給与だけでなく、会社負担の社会保険料、採用費、教育や引き継ぎにかかる負担まで考える必要があります。
一方、外注する場合は、月額料金だけでなく、初期費用、追加料金、システム利用料、会社側に残る確認・承認作業も確認しなければなりません。
この記事では、経理担当者を採用する場合と経理業務を外注する場合について、年間コストの考え方、メリット・デメリット、向いている会社の違いを比較します。
採用、外注、併用を含め、経理体制全体をどのように設計すればよいかを先に確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:中小企業の経理体制の作り方|採用・外注・経理代行の選び方
経理担当者を採用する場合の年間コスト
経理担当者を採用する場合、会社が負担する費用は給与だけではありません。
主なコストは次のとおりです。
給与・賞与
毎月の給与に加え、会社の制度によっては賞与や各種手当が発生します。
残業が多い場合は、時間外労働に対する費用も考慮する必要があります。
会社負担の社会保険料
従業員を雇用すると、健康保険、厚生年金保険、雇用保険などについて、会社が負担する費用が発生します。
給与額だけで年間コストを判断すると、実際の会社負担との差が大きくなる可能性があります。
採用費用
採用時には、次のような費用が発生する場合があります。
- 求人媒体への掲載費
- 人材紹介会社への手数料
- 採用ページや求人原稿の作成費
- 面接や選考に使う社内担当者の時間
- 入社手続きにかかる事務負担
求人を掲載しても採用できなければ、募集方法を変更したり、採用活動を継続したりする必要があります。
経理経験者を採用できない原因と対策については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経理が採用できない原因とは?中小企業が取るべき対策
備品・システム費用
入社後には、パソコン、モニター、机、会計ソフトのアカウントなどを準備します。
リモート勤務を認める場合は、社外から安全にシステムを利用するための環境整備も必要です。
教育・引き継ぎにかかる負担
経理経験者を採用した場合でも、入社直後からすべての業務を任せられるとは限りません。
会社によって、次のような運用が異なるためです。
- 使用する会計ソフト
- 請求書の発行方法
- 経費精算のルール
- 支払予定の確認方法
- 月次締めのスケジュール
- 顧問税理士との連携方法
- 社内の確認・承認フロー
教育や引き継ぎを担当する社員の時間も、採用に伴う社内コストとして考える必要があります。
退職・休職時の対応費用
採用した担当者が退職・休職した場合は、後任者の採用、業務の引き継ぎ、欠員期間中の対応が必要です。
特に一人で経理を担当している場合は、退職によって月次処理や支払準備が止まる可能性があります。
経理担当者が退職・休職した場合の対応については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理担当者が退職・休職したとき、経理代行は使える?対応範囲を解説
採用時の年間コストを計算する方法
採用にかかる年間コストは、次の項目を合計して考えます。
採用の年間コスト
- 年間給与
- 賞与・手当
- 会社負担の社会保険料
- 採用費用
- パソコンやシステムなどの費用
- 教育・引き継ぎにかかる社内負担
- 残業や欠員対応にかかる費用
採用初年度は採用費や備品費が発生するため、2年目以降よりも負担が大きくなる場合があります。
また、退職によって再採用が必要になれば、採用費と教育負担が繰り返し発生します。
経理担当者を採用するメリット
社内で日常的に相談しやすい
社内に担当者がいれば、取引内容や請求方法について、その場で確認しやすくなります。
営業担当者や経営者とのやり取りが多い会社では、社内での即時対応がメリットになります。
会社独自の運用を理解してもらいやすい
長期的に勤務することで、取引先ごとの請求ルールや社内の承認方法など、会社独自の運用を理解してもらいやすくなります。
社内に経理ノウハウを蓄積しやすい
業務手順や判断基準を記録しながら運用すれば、経理に関する知識を社内へ蓄積できます。
将来的に社内の経理部門を強化したい会社にとって、採用は有力な選択肢です。
経理担当者を採用するデメリット
採用できるまで経理体制を整えられない
求人を出しても、希望する経験や勤務条件に合う人材をすぐに採用できるとは限りません。
採用活動が長期化すれば、その間も社長や既存社員が経理業務を担当し続ける必要があります。
入社後に教育と引き継ぎが必要になる
経理経験者であっても、会社独自のルールやシステムを理解するには時間がかかります。
教育を担当する人がいない場合は、採用後の立ち上がりが遅れることがあります。
一人の担当者に業務が集中する可能性がある
担当者を一人採用しただけでは、退職や休職のリスクをなくすことはできません。
業務一覧や手順書を整え、他の社員や外部サービスが補完できる状態をつくる必要があります。
業務量が少ない時期も固定費が発生する
業務量が季節によって変動する会社でも、給与や会社負担の社会保険料などの固定費は継続して発生します。
年間を通じて担当者一人分の業務量があるかを確認することが大切です。
経理業務を外注する場合の年間コスト
経理業務を外注する場合は、主に次の費用が発生します。
月額基本料金
契約範囲に含まれる日常的な経理業務に対して、毎月支払う費用です。
料金は、依頼する業務や処理件数によって異なります。
初期費用
業務開始前に、次のような作業が必要な場合は、初期費用が設定されることがあります。
- 現在の業務内容の整理
- 会計ソフトの初期設定
- 過去データの移行
- 資料共有方法の整備
- 業務フローの作成
- アカウントや権限の設定
オプション・追加料金
契約範囲を超える業務や処理件数が発生した場合は、追加料金がかかることがあります。
例えば、次のような場合です。
- 仕訳件数や請求書件数が上限を超えた
- 給与計算を追加した
- 過去の未処理取引を整理した
- 急ぎの対応を依頼した
- 年次業務を追加した
年末調整や法定調書などの年次業務は、委託先の資格体制や契約内容によって対応範囲が異なるため、追加料金だけでなく、誰が担当するかも確認します。
システム利用料
会計ソフト、請求書発行システム、経費精算システムなどの利用料が、委託料とは別に発生する場合があります。
会社側に残る業務の負担
外注しても、すべての業務を委託先だけで完結できるとは限りません。
会社側には、次のような業務が残る場合があります。
- 資料を提出する
- 取引内容を説明する
- 請求内容を決定する
- 不明取引へ回答する
- 支払いを最終承認する
- 振込を実行する
- 月次資料を確認する
- 経営判断を行う
外注の年間コストを考える際は、委託料だけでなく、会社側に残る作業も確認することが重要です。
経理代行の料金相場や費用の内訳については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
外注時の年間コストを計算する方法
外注の年間コストは、次の項目を合計して考えます。
外注の年間コスト
- 月額基本料金の12カ月分
- 初期費用
- オプション・追加料金
- システム利用料
- 会社側に残る確認・承認作業の負担
見積書を比較する際は、月額料金だけでなく、何件まで処理できるか、どの業務が追加料金になるかも確認しましょう。
採用と外注の年間コストを同じ条件で比較する
採用と外注の年間コストを比較する際は、どちらも毎年発生する費用、初年度に発生する費用、業務量が増えた場合の費用、社内に残る負担に分けて整理します。
| 確認項目 | 採用する場合 | 外注する場合 |
|---|---|---|
| 毎年発生する基本費用 | 月給×12カ月、賞与、会社負担の社会保険料 | 月額基本料金×12カ月 |
| 初年度に発生しやすい費用 | 採用費、備品、システム、教育・引き継ぎ | 初期設定、業務整理、データ移行 |
| 業務量増加時の費用 | 残業、増員、配置変更 | 件数超過、追加業務、プラン変更 |
| 社内に残る負担 | 教育、管理、確認、承認 | 資料提出、質問への回答、確認、承認 |
| 欠員・変更時の費用 | 再採用、引き継ぎ、欠員対応 | 委託先変更、データ返却、再引き継ぎ |
採用と外注を比較する際は、毎月支払う金額だけでなく、初期費用、業務量が増えた場合の費用、社内に残る作業、担当者や委託先を変更する際の負担まで含めて判断することが重要です。
経理業務を外注するメリット
採用活動を行わずに体制を整えられる
外注では、求人募集や面接を行わずに経理体制の整備を進められます。
契約内容、必要資料、システム権限などの準備が整えば、業務開始へ進めます。
社内での教育負担を抑えられる
委託先へ自社の業務内容を説明する必要はありますが、経理の基礎知識から教育する必要はありません。
採用後の研修や指導に十分な時間を確保できない会社にとっては、選択肢になります。
必要な業務を選んで依頼できる
会社の状況に応じて、記帳だけを依頼したり、請求書管理、入金確認、支払準備、給与計算、月次資料の作成まで範囲を広げたりできる場合があります。
業務量が増減する会社でも、契約範囲を見直しながら利用できます。
個人の退職による影響を抑えやすい
複数人で対応する委託先であれば、特定の一人が退職した場合でも、社内で一人だけを採用している場合と比べて業務への影響を抑えやすくなります。
ただし、実際の対応体制は委託先によって異なるため、契約前に確認が必要です。
経理業務を外注する際のデメリットと注意点
契約範囲外の業務には対応してもらえない
外注では、原則として契約で決めた範囲の業務を依頼します。
社内で急に発生した作業や例外的な対応が、基本料金に含まれない場合があります。
会社側の確認と承認は必要になる
取引の背景や経営上の判断は、委託先だけでは決められません。
特に請求内容の確定、支払いの最終承認、振込実行などは、会社側が担当する場合があります。
資料共有や連絡ルールを整える必要がある
委託先が業務を進めるには、請求書や領収書などの資料を決められた期限までに共有する必要があります。
資料の提出が遅れれば、月次処理も遅れる可能性があります。
社内にノウハウが残りにくい場合がある
業務内容を委託先だけが把握している状態になると、契約終了時の引き継ぎが難しくなることがあります。
業務一覧、役割分担、資料の保存場所などは、会社側でも確認できる状態にしておくことが大切です。
経理代行で依頼できる業務や会社側に残る役割については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
採用と外注の違いを比較
採用と外注の特徴を整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 採用 | 外注 |
|---|---|---|
| 担当者の給与・会社負担の社会保険料 | 会社が負担する | 委託先スタッフ分を直接負担しない |
| 採用活動 | 必要 | 不要 |
| 教育・業務説明 | 基礎教育と自社業務の教育が必要 | 経理の基礎教育は原則不要だが、自社業務の説明は必要 |
| 初期準備 | 採用、教育、備品準備 | 業務整理、資料共有、権限設定 |
| 退職の影響 | 受けやすい | 委託先の対応体制による |
| 日常的な社内対応 | 行いやすい | 契約範囲と連絡方法による |
| ノウハウの蓄積 | 社内に残しやすい | 業務一覧や運用ルールの共有方法による |
| 業務量への対応 | 増員や配置変更が必要 | 契約範囲を調整できる場合がある |
| 費用の性質 | 人件費を中心とする固定費 | 契約範囲に応じた委託費 |
| 会社側の管理 | 採用した担当者の教育・労務管理が必要 | 委託先との連絡・契約管理が必要 |
どちらか一方が、すべての会社にとって優れているわけではありません。
業務量、社内で必要な対応、採用のしやすさ、将来の事業計画をもとに判断します。
採用が向いている会社と外注が向いている会社
採用が向いている会社
経理担当者の採用は、次のような会社に向いています。
- 経理業務量が年間を通じて多い
- 社内で頻繁な確認や調整が必要
- 経理部門を社内で育成したい
- 採用後の教育や管理を行える
- 経理ノウハウを社内へ蓄積したい
- 担当者一人に依存しない体制をつくれる
必要な担当者数を考える際は、従業員数だけでなく、取引件数や担当する業務も確認する必要があります。
合わせて読みたい:経理担当者は何人必要?従業員数別の目安と経理体制を解説
外注が向いている会社
経理業務の外注は、次のような会社に向いています。
- 一人を採用するほどの業務量ではない
- 経理経験者の採用が難しい
- 採用や教育に時間をかけられない
- 社長や他部署が経理を兼務している
- 必要な業務だけを委託したい
- 早めに経理体制の整備を始めたい
公認会計士の視点|固定費と業務量のバランスを確認する
採用と外注を比較する際は、単純な費用差だけでなく、現在の業務量に対して体制が過剰になっていないか、不足していないかを確認することが重要です。
例えば、経理担当者一人分の業務量が継続して発生する会社であれば、採用によって社内対応力を高める方法があります。
一方、月末や決算前だけ業務が増える会社や、一部の経理業務だけを外部へ出したい会社では、外注の方が業務量に合わせやすい場合があります。
また、採用後に担当者一人へ業務が集中すれば、退職リスクや属人化は残ります。
外注した場合でも、会社側の窓口や承認者が決まっていなければ、業務は円滑に進みません。
採用か外注かを決めるだけでなく、誰が作業し、誰が確認し、誰が最終判断するのかまで整理することが大切です。
よくある質問
Q1. 採用と外注では、どちらが年間コストを抑えられますか?
業務量や依頼範囲によって異なります。
採用では、給与以外に会社負担の社会保険料、採用費、教育費などが発生します。
外注では、月額料金、初期費用、追加料金、システム利用料などを確認する必要があります。
両方の年間総額と、会社側に残る作業を比較しましょう。
Q2. 経理業務をすべて外注できますか?
対応できる範囲は、委託先や契約内容によって異なります。
記帳、請求書管理、入金確認、支払予定表・振込データの作成などを依頼できる場合がありますが、取引内容の説明、請求金額の決定、支払いの最終承認、振込実行、経営判断は会社側に残ることがあります。
Q3. 採用と外注を併用できますか?
併用できます。
例えば、社内担当者が取引内容の確認や承認を行い、記帳や月次資料の作成を外部へ委託する方法があります。
まとめ
経理担当者の採用と外注を比較する際は、月額費用だけで判断しないことが重要です。
採用では、次の費用やリスクを確認します。
- 給与・賞与
- 会社負担の社会保険料
- 採用費
- 備品・システム費
- 教育・引き継ぎの負担
- 退職・休職リスク
外注では、次の項目を確認します。
- 月額基本料金
- 初期費用
- 追加料金
- システム利用料
- 会社側に残る確認・承認作業
- 契約範囲
- 委託先の対応体制
採用には、社内で柔軟に対応しやすく、ノウハウを蓄積しやすいという特徴があります。
外注には、採用や教育の負担を抑え、必要な業務を選んで依頼しやすいという特徴があります。
年間コスト、業務量、採用のしやすさ、退職リスクを整理したうえで、自社に合う方法を選びましょう。
経理体制の見直しをご検討中の方へ
「経理担当者を採用すべきか、外注すべきか判断できない」
「給与以外のコストも含めて比較したい」
「採用しても退職や属人化が心配」
このようなお悩みをお持ちでしたら、まるまる経理へお問い合わせください。
現在の経理業務や社内体制を確認したうえで、採用と外注のどちらが適しているか、会社側に残す業務も含めて整理します。
