AIは、経理業務におけるデータ整理や候補の提示、異常値の確認などを支援できます。
一方で、会社独自のルールや取引の背景を踏まえた判断、税務・会計上の専門的な判断まで、AIだけで完結できるわけではありません。
AIを活用する際に重要なのは、すべての経理業務を自動化しようとするのではなく、次の2つを分けることです。
- AIによって効率化しやすい業務
- 人が確認・判断すべき業務
この記事では、中小企業の経理業務を例に、AIで効率化しやすい領域と、人が担うべき領域を整理します。
AIを導入する際の情報管理や社内ルール、試験運用の進め方については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理にAIを導入するには?中小企業が最初に確認すべき基本事項
結論|AIは経理担当者の判断を支援するツール
AIは、経理業務のすべてを代わりに行うものではありません。
AIが得意なのは、次のような作業です。
- 大量のデータを整理する
- 過去の処理から候補を提示する
- 入力内容の違いや異常値を見つける
- 定型的な文章の下書きを作る
- 確認すべき項目を整理する
一方で、次のような業務には人の判断が必要です。
- 会社独自の経理ルールに沿った処理
- 取引の目的や背景を踏まえた判断
- 税務・会計上の専門的な判断
- 支払いや処理内容の最終承認
- 経営方針に関わる意思決定
AIは、経理担当者を不要にするものではありません。
入力や情報整理にかかる時間を減らし、担当者が確認、分析、改善などの業務へ時間を使いやすくするための支援ツールです。
AIで経理はどこまで効率化できる?
経理業務ごとに、AIが支援しやすい領域と、人が担うべき領域を整理すると、次のようになります。
| 経理業務 | AIが支援できること | 人が行うこと |
|---|---|---|
| 請求書・領収書の読み取り | 文字や金額のデータ化 | 原本との一致確認 |
| 仕訳候補の作成 | 勘定科目や税区分の候補提示 | 取引内容を踏まえた最終判断 |
| 不明取引の確認 | 過去データとの比較、確認事項の整理 | 取引の背景確認 |
| 経費の用途判断 | 判断材料や確認項目の提示 | 社内規程に沿った最終判断 |
| 入力ミス・異常値の確認 | 重複や通常と異なる数値の抽出 | 修正が必要かの確認 |
| 社内への連絡 | メールやチャットの文案作成 | 内容確認と送信 |
| 月次チェック | 数値の比較、確認項目の抽出 | 月次数値の確定 |
| 決算整理 | 必要な情報の整理 | 会計処理の判断 |
| 税務対応 | 参考情報の整理 | 税理士等による専門判断 |
| 経営分析 | データの集計や比較 | 経営者による意思決定 |
AIは、繰り返し発生する作業や、大量のデータから候補を抽出する作業を得意とします。
一方で、会社ごとの事情や責任を伴う判断は、人が行わなければなりません。
経理で活用されるAI・自動化機能の代表例
経理業務で利用されるAI・自動化機能の代表例には、次のようなものがあります。
| 仕組み・機能 | 主な役割 | 活用例 |
|---|---|---|
| AI-OCR | 紙やPDFの文字をデータ化する | 請求書・領収書の読み取り |
| 会計ソフトのAI・自動化機能 | 仕訳候補や確認項目を提示する | 勘定科目の候補、異常値の確認 |
| 生成AI | 文章作成や情報整理を支援する | 確認メール、マニュアル、要約 |
AI-OCRは、紙やPDFの請求書に記載された日付、取引先名、金額などを読み取り、データ入力を支援します。
会計ソフトには、過去の処理を参考にして勘定科目や税区分の候補を提示する機能のほか、あらかじめ設定したルールに基づいて処理を自動化する機能もあります。
生成AIは、社内への確認文や業務マニュアルの下書き、情報の整理や要約などに活用できます。
これらの仕組みや機能は、完全に独立しているとは限りません。複数の機能を組み合わせて経理業務を支援するサービスもあります。
大切なのは、AIという名称だけで選ぶのではなく、どの経理業務を効率化したいのかを明確にしたうえで、必要な機能を確認することです。
AIで効率化しやすい経理業務
請求書や領収書の読み取り
紙やPDFで受け取った請求書や領収書の内容を、会計ソフトへ入力する作業には時間がかかります。
AI-OCRを活用すると、次のような情報の読み取りを支援できます。
- 取引先名
- 取引日
- 支払期日
- 金額
- 消費税額
- 摘要
ただし、読み取った内容が必ず正しいとは限りません。
数字や取引先名に誤りがないか、元の請求書や領収書と照合する作業は必要です。
仕訳候補の作成
銀行口座やクレジットカードの明細から、勘定科目や摘要の候補を提示する機能も、AIを活用しやすい領域です。
過去に同じ取引先を同じ勘定科目で処理している場合、AIが過去の処理を参考に候補を提示できます。
これにより、担当者が一件ずつ勘定科目を考える時間を減らせます。
ただし、同じ取引先への支払いでも、取引内容によって勘定科目が変わる場合があります。
候補をそのまま確定するのではなく、取引内容との一致を確認することが必要です。
不明取引の確認
銀行口座やクレジットカードの明細には、摘要だけでは内容を判断できない取引があります。
AIは、次のような作業を支援できます。
- 過去の処理履歴との比較
- 関連する取引の検索
- 確認すべき項目の整理
- 社内へ送る確認文の作成
AIが取引内容を確定するのではなく、担当者が確認するための材料を整理する使い方が適しています。
不明取引の確認にAIを活用する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理の不明取引をAIで効率化|確認時間を減らす活用方法
経費の用途判断を補助する
経費精算では、同じ支出でも目的によって処理方法が変わることがあります。
例えば、飲食代であっても、参加者や目的によって、会議費や交際費などの候補が考えられます。
AIは、入力された情報をもとに、次のような内容を整理できます。
- 考えられる勘定科目
- 判断に必要な追加情報
- 社内規程で確認すべき点
- 過去の処理との違い
ただし、AIが提示した候補だけで経費区分を確定することは適切ではありません。
取引の目的や参加者、会社の経費規程などを確認し、担当者が最終判断する必要があります。
経費の用途判断をAIで補助する方法については、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経費の用途判断にAIを活用|経費精算で迷わないためのポイント
入力ミスや異常値を確認する
AIは、大量のデータから通常とは異なる項目を探す作業を支援できます。
例えば、次のような項目です。
- 同じ請求書の重複登録
- 前月と比べて大きく変動した金額
- 通常とは異なる勘定科目
- 入力されていない項目
- 過去の処理と異なる税区分
担当者は、すべての取引を同じ深さで確認するのではなく、AIが抽出した項目を優先して確認できます。
ただし、数値が通常と異なるからといって、必ず誤りとは限りません。
一時的な大型取引や季節変動もあるため、修正が必要かどうかは人が判断します。
社内への確認文を作成する
経理担当者は、領収書の提出や取引内容の確認など、多くの連絡を行います。
生成AIは、次のような文案の作成を支援できます。
- 不足資料の提出依頼
- 不明取引の確認
- 経費申請の修正依頼
- 月次締めの案内
- 支払内容の確認
毎回一から文章を作成する必要がなくなるため、連絡にかかる時間を減らせます。
ただし、作成された文案に誤った日付や取引内容が含まれていないか、送信前に確認する必要があります。
月次確認に必要な情報を整理する
AIは、月次データを比較し、確認すべき変化を整理する作業にも活用できます。
例えば、次のような確認です。
- 前月と比べて大きく増減した勘定科目
- 予算と実績の差
- 残高が長期間変わっていない項目
- 未処理の取引
- 確認が必要な売掛金や買掛金
AIは確認候補を抽出できますが、月次数値を確定するのは担当者です。
数値が変動した理由や、修正が必要かどうかは、会社の状況を理解している人が確認する必要があります。
AIだけでは難しい経理業務
会社独自のルールに沿った判断
経理処理には、会計上のルールだけでなく、会社独自の運用ルールも関係します。
例えば、次のようなものです。
- 一定金額以上は役員の承認が必要
- 部門ごとに費用の管理方法が異なる
- 特定の支出は事前申請が必要
- 例外的な支払いには個別承認が必要
AIはルールを参考に候補を提示できますが、例外を認めるべきか、誰の承認が必要かまで責任を持って決定することはできません。
取引の背景を踏まえた会計処理
同じ金額、同じ取引先への支払いでも、目的によって処理が変わる場合があります。
例えば、設備に関する支出でも、次のような違いがあります。
- 故障した部分の修理
- 設備全体の更新
- 新規事業のための購入
- 機能を追加するための改修
AIは請求書に書かれた情報を整理できますが、その支出が行われた経営上の背景まで自動的に理解できるとは限りません。
取引の目的や経緯を確認し、適切な処理を判断するのは人の役割です。
税務・会計上の専門的な判断
経理業務には、専門的な判断が必要な場面があります。
例えば、次のようなものです。
- 消費税区分の判断
- 固定資産と修繕費の区分
- 決算整理仕訳
- 引当金の計上
- 会計方針の変更
- 税務上の取り扱い
AIは参考情報や確認項目を提示できますが、個別の取引に対する最終的な税務・会計判断を任せることはできません。
必要に応じて、社内の担当者や税理士、公認会計士などの専門家へ確認することが重要です。
最終承認や決裁
支払いや経費精算、仕訳の確定など、会社として責任を負う承認は、人が行う必要があります。
AIが候補を提示したとしても、最終的な処理内容を確認し、承認する責任までAIへ移すことはできません。
特に、次のような業務は人による確認が必要です。
- 支払いの最終承認
- 振込の実行
- 経費申請の承認
- 月次数値の確定
- 決算数値の確定
- 重要な会計処理の決定
経営判断
AIは売上や費用、資金繰りなどのデータを集計し、比較することができます。
しかし、その数字をもとに、どの事業へ投資するか、どの費用を削減するかといった経営判断を行うのは経営者です。
AIが示した分析結果は、判断材料の一つとして利用する必要があります。
AIと人の役割を分けて考える
AIを活用する際は、業務ごとに次の役割を分けて考えると整理しやすくなります。
| 業務の段階 | AIの役割 | 人の役割 |
|---|---|---|
| データ収集 | 読み取りや取り込みを支援する | 元資料との一致を確認する |
| 情報整理 | 候補や確認事項を整理する | 取引の背景を補足する |
| 処理案の作成 | 仕訳や文章の候補を提示する | 適切な案を選択する |
| チェック | 異常値や重複を抽出する | 誤りかどうかを判断する |
| 承認 | 承認に必要な情報を整理する | 最終承認を行う |
| 経営活用 | 数値を集計・比較する | 経営判断を行う |
AIに任せるのは、候補の提示や確認対象の抽出までと考えるのが基本です。
確定、承認、意思決定は、人が行う必要があります。
AIを活用しても効率化しにくい経理体制
AIを利用しても、経理データや処理ルールが整理されていなければ、十分な効果を得にくい場合があります。
例えば、次のような状態です。
- 紙、Excel、会計ソフトに情報が分散している
- 担当者ごとに仕訳方法が異なる
- 勘定科目や摘要のルールが統一されていない
- 証憑の保存場所が決まっていない
- 不明取引が毎月多く発生している
- 最終確認を行う人が決まっていない
AIは、入力された情報や過去の処理をもとに候補を作成します。
そのため、元となるデータや業務ルールが統一されていなければ、候補の精度が安定せず、かえって確認や修正に時間がかかることがあります。
また、AIの性能が高くても、会計ソフトの設定や運用方法が整理されていなければ、自動連携や入力補助を十分に活用できません。
クラウド会計を導入した後も入力や確認作業が減らない場合は、ツールそのものではなく、初期設定や社内の運用ルールに原因がある可能性があります。
freeeを導入しても経理業務が楽にならない原因と、その改善方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:freee導入後も経理が楽にならない5つの原因と対策
AIによって経理担当者の役割はどう変わる?
AIを活用することで、経理担当者が行っていた入力や情報整理の一部を効率化できます。
その結果、担当者は次のような業務へ時間を使いやすくなります。
- 月次決算の早期化
- 数値の確認と分析
- 資金繰りの把握
- 経理業務の改善
- 経営者への情報提供
- 社内ルールの整備
AIによって経理担当者が不要になるわけではありません。
AIを適切に活用できれば、入力や情報整理に使っていた時間の一部を、確認・分析・業務改善へ振り向けやすくなります。
AI活用は経理DXの一部として考える
AIだけを導入しても、紙の資料や手入力が多く残っていれば、経理業務全体を効率化することは難しくなります。
AIを効果的に利用するには、次のような仕組みも関係します。
- 請求書や領収書のデータ化
- クラウド会計への連携
- 資料提出方法の統一
- 経理ルールの標準化
- 承認フローの整理
- 月次処理の見直し
AI活用は、経理DXを進めるための一つの手段です。
中小企業が経理DXを進める手順については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:中小企業の経理DX|導入のための実践7ステップ
公認会計士の視点|業務単位ではなく工程単位でAI活用を考える
AIを活用する際は、「仕訳業務をAIに任せられるか」という業務単位だけで判断しないことが重要です。
例えば、仕訳業務は次のような工程に分けられます。
- 取引データを取り込む
- 勘定科目や税区分の候補を作る
- 証憑と候補を照合する
- 例外的な取引を判断する
- 最終的な処理を確定する
このうち、データの取り込み、候補の提示、確認対象の抽出は、AIや自動化機能で効率化しやすい領域です。
一方、取引の背景を踏まえた判断や例外処理、最終的な承認は、人が担う必要があります。
業務全体をAIへ置き換えようとするのではなく、工程を分解し、AIに任せる部分と人が判断する部分を決めることが重要です。
例えば、AIが仕訳候補を提示した後に、担当者が証憑や取引内容と照合し、例外的な取引は責任者や専門家へ確認する流れを設けます。
工程ごとの役割を明確にすることで、処理の品質を維持しながら、入力や確認にかかる時間を削減しやすくなります。
よくある質問
Q1. AIだけで経理業務を行うことはできますか?
現時点では、AIだけで経理業務を完結させることは難しいと考えられます。
AIはデータ整理や候補の提示、文章作成などを支援できますが、取引の背景を踏まえた判断や最終承認は人が行う必要があります。
Q2. AIを活用すると月次決算は早くなりますか?
入力や確認作業の一部を効率化できれば、月次決算の早期化につながる可能性があります。
ただし、資料の提出が遅れている場合や、社内の処理ルールが整理されていない場合は、AIだけでは月次決算を早められません。
Q3. AIを導入すると経理担当者は不要になりますか?
AIを導入しても、経理担当者が不要になるわけではありません。
仕訳候補の確認、例外処理、最終承認、経営者への報告など、人が担うべき業務は残ります。
AIは、担当者が確認や分析といった重要な業務へ集中するための支援ツールです。
まとめ
AIは、経理業務のすべてを自動化するものではありません。
AIで効率化しやすいのは、次のような業務です。
- 請求書や領収書の読み取り
- 仕訳候補の作成
- 不明取引の情報整理
- 経費用途の判断補助
- 入力ミスや異常値の確認
- 社内連絡文の作成
- 月次確認項目の抽出
一方で、次のような業務は人が担う必要があります。
- 会社独自のルールに沿った判断
- 取引の背景を踏まえた処理
- 税務・会計上の専門的な判断
- 最終承認や決裁
- 経営判断
AIを人の代わりとして利用するのではなく、人の確認や判断を支援する仕組みとして活用することが重要です。
AIを含め、経理体制を見直すことで会社にどのような変化が期待できるのかについては、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経理体制を見直すと会社はどう変わる?利益・資金繰り・生産性を改善する方法
経理業務の効率化やAI活用をご検討中の方へ
「AIを利用して、どの経理業務を効率化できるのか分からない」
「AIだけでなく、経理業務全体を見直したい」
このようなお悩みをお持ちでしたら、まるまる経理へお問い合わせください。
現在の業務内容や経理体制を確認したうえで、会社の状況に合った業務範囲や改善方法をご提案します。
AI活用だけでなく、経理代行を利用した場合の料金相場や費用の内訳を確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
