「経理業務にAIを取り入れたいが、何から始めればよいのか分からない」
このように考えている中小企業もあるのではないでしょうか。
AIを経理業務で利用する際は、ツールを契約するだけでは十分ではありません。
導入前に、次のような点を決めておく必要があります。
- どの業務でAIを利用するのか
- 誰がAIを利用するのか
- どの情報を入力してよいのか
- AIの回答を誰が確認するのか
- 問題が起きた場合にどう対応するのか
- どの範囲から試験運用するのか
AI導入で重要なのは、最新のツールを選ぶことよりも、安全に継続して利用できる運用を設計することです。
この記事では、中小企業が経理へAIを導入する際に確認したい、情報管理、社内ルール、確認体制、試験運用の手順について、文章の作成や情報整理、確認項目の洗い出しなどに利用する生成AIを想定して解説します。
AI導入はツール選びより運用設計が重要
AI導入を検討すると、最初に「どのAIサービスを利用するか」を比較したくなるかもしれません。
しかし、利用する業務や情報管理のルールが決まっていなければ、高性能なAIを導入しても適切に活用できません。
例えば、次のような状態では、導入後に混乱が生じる可能性があります。
- 担当者ごとにAIの使い方が異なる
- 入力してよい情報の基準が決まっていない
- AIの回答をそのまま使用している
- 最終確認を行う担当者が決まっていない
- 利用できるAIサービスが統一されていない
- 問題が起きた際の報告先が決まっていない
AIを導入する際は、次の5項目を順番に整理します。
| 確認項目 | 決める内容 |
|---|---|
| 利用目的 | どの経理業務を改善したいか |
| 情報管理 | 入力できる情報と入力できない情報 |
| 確認体制 | AIの回答を誰が確認・承認するか |
| 社内ルール | 利用できるサービスや利用方法 |
| 試験運用 | 誰が、どの業務で、どの範囲から試すか |
1.AIを利用する目的と業務を決める
最初に、AIを導入する目的を明確にします。
「経理にAIを導入する」という目的だけでは、対象が広すぎます。
例えば、次のように、現在の課題から対象業務を絞ります。
- 不明取引の確認に時間がかかっている
- 社内への確認メールを毎月何度も作成している
- 経費精算で確認すべき点が担当者ごとに異なる
- 入力ミスのチェックに時間がかかっている
- 業務マニュアルの作成が進んでいない
最初から複数の業務へAIを導入するのではなく、課題が明確で、効果を確認しやすい業務を一つ選ぶことが大切です。
AIで効率化しやすい経理業務と、人が判断すべき業務の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:AIで経理はどこまで効率化できる?
2.AIへ入力してよい情報を整理する
経理業務では、会社や取引先、従業員に関する重要な情報を取り扱います。
そのため、AIを利用する前に、入力してよい情報と入力してはいけない情報を決める必要があります。
利用条件を確認せずに入力しない情報の例
利用するAIサービスの契約内容や管理設定を確認できていない場合は、次のような情報をそのまま入力しないようにします。
- 氏名
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- 銀行口座番号
- クレジットカード情報
- マイナンバー
- 給与や賞与の情報
- 取引先との契約内容
- 未公開の売上や利益
- 社外秘の事業計画
- ログイン情報やパスワード
どの情報が入力できるかは、利用するサービスの契約内容や情報管理方針によっても異なります。
会社として利用を認めていない情報は、担当者の判断だけで入力しないようにします。
情報を匿名化して利用する
AIへ入力する必要がある場合は、業務に支障がない範囲で情報を匿名化します。
例えば、次のように置き換えます。
- 取引先名を「A社」に変更する
- 従業員名を削除する
- 口座番号を伏せる
- 正確な金額を概算額に置き換える
- 契約書から固有名詞を削除する
- 個人を特定できる情報を除く
ただし、匿名化すれば、どのような情報でも入力してよいとは限りません。
固有名詞を削除しても、取引内容、金額、日付などの組み合わせから、会社や個人を推測できる場合があります。
入力する情報全体を確認したうえで、会社の情報管理方針に従い、AIで利用できる範囲を決めることが重要です。
AIサービスの情報管理を確認する
利用するAIサービスについて、少なくとも次の点を確認しましょう。
- 入力した情報がどのように保存されるか
- 入力内容がサービス改善等に利用されるか
- データを保存しない設定があるか
- 管理者が利用状況を確認できるか
- 利用者ごとに権限を設定できるか
- 契約終了後にデータがどう扱われるか
- 問題発生時の問い合わせ先があるか
無料か有料かだけで判断せず、経理情報を扱う用途に適したサービスかを確認することが重要です。
また、サービスの利用条件や管理設定は変更される場合があるため、導入時だけでなく、運用開始後も定期的に確認しましょう。
3.AIの回答を確認する体制を決める
AIの回答には、誤りや不足が含まれる可能性があります。
そのため、AIの回答を誰が確認し、どの段階で確定するのかを決めておく必要があります。
例えば、仕訳候補の確認では、次のように役割を分けます。
| 作業 | 担当 |
|---|---|
| AIへ必要な情報を入力する | 経理担当者 |
| AIが候補を提示する | AI |
| 元資料と候補を照合する | 経理担当者 |
| 例外的な取引を判断する | 責任者・専門家 |
| 最終的な処理を確定する | 権限を持つ担当者 |
AIの回答を確認する際は、次の点を確認します。
- 元資料と一致しているか
- 取引の背景が反映されているか
- 社内ルールに沿っているか
- 過去の処理と矛盾していないか
- 専門家への確認が必要な内容ではないか
AIの回答をそのまま利用するのではなく、確認を前提とした業務フローを作ることが重要です。
4.AI利用に関する社内ルールを決める
担当者ごとに利用方法が異なると、情報管理や回答品質にばらつきが生じます。
最低限、次の内容を社内ルールとして決めましょう。
- 利用を認めるAIサービス
- AIを利用できる担当者
- AIを利用できる業務
- 入力してよい情報
- 入力してはいけない情報
- AIの回答を確認する方法
- 最終承認を行う担当者
- 利用履歴の記録方法
- 問題が起きた場合の報告先
ルールは長い規程にする必要はありません。
試験運用の段階では、担当者が迷わず利用できるよう、1枚程度の簡単な利用ルールから始める方法もあります。
標準的な指示文を用意する
生成AIは、指示の内容によって回答が変わります。
担当者ごとのばらつきを抑えるため、よく利用する指示文を標準化します。
例えば、次のような形です。
- 「この取引について、確認すべき項目を整理してください」
- 「不足している情報を箇条書きで示してください」
- 「社内への確認メールの下書きを作成してください」
- 「回答を確定せず、考えられる候補を複数提示してください」
- 「判断できない場合は、追加で必要な情報を示してください」
AIに最終判断を求めるのではなく、確認事項や候補を整理させる指示にすると、経理業務で利用しやすくなります。
問題が起きた場合の対応を決める
AIへ誤って機密情報を入力した場合や、不適切な回答を業務に使用してしまった場合の対応も決めておきます。
例えば、次の内容です。
- 利用を停止する基準
- 上司や管理部門への報告先
- AIサービス事業者への問い合わせ方法
- 入力内容を削除できるかの確認
- 影響を受ける情報の範囲確認
- 再発防止ルールの見直し
問題が起きてから対応を考えるのではなく、最低限の報告手順を事前に決めておくことが重要です。
5.小さな範囲で試験運用する
AIは、最初から全社やすべての経理業務へ展開するのではなく、限定された範囲で試すことが大切です。
試験運用では、次の条件を絞ります。
- 対象とする業務
- 利用する担当者
- 使用するAIサービス
- 入力する情報
- 確認する責任者
- 試験中に記録する項目
例えば、次のような業務から始めます。
- 不明取引について確認すべき情報を整理する
- 経費の用途判断に必要な確認項目を整理する
- 社内への資料提出依頼の文案を作る
- 業務マニュアルの下書きを作る
- 月次確認用のチェックリストを作る
不明取引の確認にAIを利用する具体的な方法については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:経理の不明取引をAIで効率化|確認時間を減らす活用方法
経費精算でAIを利用する際の考え方については、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:経費の用途判断にAIを活用|経費精算で迷わないためのポイント
AI導入の基本的な手順
中小企業が経理へAIを導入する場合は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
手順1.現在の課題を整理する
まず、経理業務のどこに時間がかかっているかを確認します。
「AIを使うこと」を目的にせず、解決したい課題を明確にします。
手順2.試験運用する業務を一つ選ぶ
課題が明確で、結果を確認しやすい業務を選びます。
最初から重要な会計判断や最終承認へ利用するのではなく、情報整理や文案作成などから始めます。
手順3.利用するAIサービスを決める
機能だけでなく、情報管理や利用者管理の仕組みも確認します。
会社が認めていないサービスを、担当者が個人の判断で利用しないようにします。
手順4.入力情報と確認方法を決める
入力してよい情報、匿名化の方法、AIの回答を確認する担当者を決めます。
判断が必要な内容は、誰へ確認するのかも整理します。
手順5.限定された担当者で試す
最初は、少人数の担当者と限定された業務で試験運用します。
利用中に発生した問題や、回答しにくかった内容を記録します。
手順6.効果と問題点を確認する
試験運用では、次のような点を確認します。
- 作業時間が減ったか
- 確認漏れが減ったか
- AIの回答にどの程度修正が必要だったか
- 担当者が迷わず利用できたか
- 情報管理上の問題がなかったか
- 確認担当者の負担が増えていないか
時間が短縮されても、確認作業が大幅に増えていれば、十分な効果が出ているとはいえません。
手順7.ルールを修正して利用範囲を広げる
試験運用で分かった課題をもとに、社内ルールや指示文を修正します。
問題なく利用できることを確認してから、担当者や対象業務を段階的に広げます。
AI導入前チェックリスト
AIを導入する前に、次の項目を確認しましょう。
| 確認項目 | チェック |
|---|---|
| AIを利用する目的が明確になっている | □ |
| 試験運用する業務が決まっている | □ |
| 利用するAIサービスが決まっている | □ |
| AIを利用できる担当者が決まっている | □ |
| 入力してよい情報が整理されている | □ |
| 入力してはいけない情報が整理されている | □ |
| 匿名化の方法が決まっている | □ |
| AIの回答を確認する担当者が決まっている | □ |
| 最終承認を行う担当者が決まっている | □ |
| 問題発生時の報告先が決まっている | □ |
| 試験運用の結果を記録する方法が決まっている | □ |
すべてを最初から完璧に整える必要はありません。
ただし、情報管理と最終確認に関するルールは、利用を始める前に決めておく必要があります。
AI導入の効果を確認する
AIを導入した後は、利用回数だけでなく、経理業務が実際に改善されたかを確認します。
例えば、次のような指標があります。
- 一件当たりの処理時間
- 不明取引の確認にかかる時間
- 社内への確認回数
- 修正が必要になった件数
- 月次処理の完了日
- AIの回答を修正した割合
- 担当者の確認時間
- 利用ルールに違反した件数
AIの利用回数が増えても、確認時間や修正作業が増えていれば、運用方法を見直す必要があります。
「AIを使ったか」ではなく、「業務負担や処理品質が改善したか」で判断することが重要です。
AI導入は経理DXの一部として進める
AIは、経理業務を改善するための一つの手段です。
紙の資料や手入力が多く残っている場合は、AIだけを導入しても十分な効果を得られないことがあります。
AI導入とあわせて、次のような見直しも必要です。
- 資料提出方法の統一
- 請求書や領収書のデータ化
- クラウド会計との連携
- 業務手順の標準化
- 承認方法の整理
- 月次処理のスケジュール化
中小企業が経理DXを進める手順については、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい:中小企業の経理DX|導入のための実践7ステップ
公認会計士の視点|最初に決めるのは最終確認者
AI導入では、「どのAIを使うか」よりも、「誰がAIの回答を確認するか」を先に決めることが重要です。
最終確認者が決まっていなければ、AIが提示した候補を誰も確定できず、かえって業務が止まる可能性があります。
特に経理業務では、次の役割を分けて考える必要があります。
- AIを操作する人
- 元資料と回答を照合する人
- 例外的な取引を判断する人
- 最終承認する人
- 専門家へ確認するかを決める人
少人数の会社では、同じ担当者が複数の役割を担う場合もあります。
その場合でも、AIが行う作業と、人が責任を持って行う作業を明確にしておくことが大切です。
よくある質問
Q1. 経理へAIを導入する場合、最初に何を決めるべきですか?
最初に、AIを利用する目的と対象業務を決めます。
あわせて、入力してよい情報と、AIの回答を最終確認する担当者を決める必要があります。
Q2. 無料のAIサービスでも試験運用できますか?
無料サービスを利用できる場合もありますが、入力した情報の保存方法や利用条件を確認する必要があります。
経理情報を扱う場合は、会社が利用を認めたサービスだけを使用し、機密情報や個人情報をそのまま入力しない運用が必要です。
Q3. 試験運用はどの程度の範囲で行えばよいですか?
最初は、担当者と対象業務を限定します。
例えば、一つの経理業務を一部の担当者だけで試し、作業時間、回答の正確性、確認負担などを記録します。
Q4. AIを導入すれば経理担当者は不要になりますか?
AIを導入しても、経理担当者が不要になるわけではありません。
AIの回答確認、例外処理、最終承認、専門的な判断など、人が担う業務は残ります。
まとめ
経理へAIを導入する際は、ツールを選ぶ前に、利用方法と管理方法を決める必要があります。
特に重要なのは次の点です。
- AIを利用する目的と業務を決める
- 入力してよい情報と入力してはいけない情報を分ける
- AIの回答を確認する担当者を決める
- 社内の利用ルールを整備する
- 限定された範囲で試験運用する
- 作業時間と確認負担の両方を測定する
- 問題点を修正してから利用範囲を広げる
AIを導入して終わりにするのではなく、実際の利用状況を確認しながら、社内ルールと運用方法を改善することが大切です。
AIだけでなく、外部委託を含めて経理体制全体を見直したい方は、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
AI活用や経理体制の見直しをご検討中の方へ
「どの経理業務にAIを活用できるのか分からない」
「情報管理や確認体制をどのように整えればよいか迷っている」
「AIだけでなく、経理業務全体を見直したい」
このようなお悩みをお持ちでしたら、まるまる経理へお問い合わせください。
現在の経理業務や運用体制を確認したうえで、AIを活用しやすい業務の整理や、外部委託を含めた経理体制の改善方法をご提案します。
AIの導入だけでなく、経理代行を活用した場合の料金相場や費用の内訳を確認したい方は、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
