「カード明細を見ても、誰が何に使ったのか分からない」
「銀行口座に入出金はあるが、何の取引なのか判断できない」
「領収書はあるものの、業務との関係が分からず担当者へ確認している」
経理では、会計ソフトへ入力する段階になって初めて、取引内容を判断できないことがあります。
この記事でいう「不明取引」とは、不正利用の疑いがある取引ではなく、社内では発生しているものの、経理処理に必要な目的・証憑・案件情報などが不足していて内容を判断できない取引を指します。
このような不明取引が毎月発生している場合、経理担当者の確認スピードだけを上げても根本的な解決にはなりません。
原因が、取引が発生した時点で必要な情報が残っていないことにある場合が多いためです。
不明取引を減らすためには、経理が後から取引内容を調べるのではなく、取引を行った人が、その時点で必要な情報を残せる仕組みをつくることが重要です。
この記事では、経理の不明取引が起きる主な原因と、不明取引そのものを発生しにくくする5つの事前ルールを解説します。
なお、この記事では、発生した不明取引をAIで確認する方法や、未処理事項を一覧にして解消まで管理する方法は扱いません。
AIを経理業務全体でどのように活用できるのかについては、以下の記事で解説しています。
合わせて読みたい:AIで経理はどこまで効率化できる?
経理業務全体がすでに滞っている場合の立て直し方については、以下の記事も参考にしてください。
合わせて読みたい:経理が回らない会社の立て直し方|優先順位と7つの改善手順
経理の不明取引が起きる主な原因
不明取引は、単に経理担当者の知識が不足しているために発生するものではありません。
取引を行った人と、後から会計処理を行う人が別であることによって発生するケースがあります。
取引の目的を利用者しか知らない
例えば、法人カードに「○○ストア 12,800円」と表示されていても、経理担当者には何を購入したのか分からないことがあります。
同じ店舗でも、
- 文房具
- パソコン周辺機器
- 贈答品
- 備品
など、購入した内容は異なります。
カードを利用した本人は覚えていても、その情報が経理へ伝わらなければ、後から確認が必要になります。
証憑と取引情報が別々に管理されている
銀行明細やカード明細は確認できても、対応する請求書や領収書が別の場所に保存されている場合があります。
例えば、
- 請求書はメール
- 領収書は紙
- カード明細は会計ソフト
- 契約書は共有フォルダ
という状態では、経理担当者が複数の場所から情報を探さなければなりません。
必要な資料が存在していても、取引との対応関係が分からなければ、不明取引になりやすくなります。
入出金だけでは取引を特定できない
銀行口座には、金額と振込名義を中心とした情報しか表示されないことがあります。
例えば、同じ取引先と複数の案件がある場合、入金だけを見ても、どの請求書に対するものなのか判断できないことがあります。
支払についても、振込先名だけでは契約や請求内容まで分からない場合があります。
毎月発生する取引の情報が蓄積されていない
毎月同じ取引について、
「これは何の支払いですか?」
と確認している会社もあります。
過去に確認した内容が残っていなければ、翌月も同じ確認が必要になります。
通常と異なる取引が経理へ共有されていない
新しい契約、大きな設備購入、一時的な外注など、通常とは異なる取引が発生しても、経理へ事前共有されていないことがあります。
その場合、経理担当者は銀行明細や請求書を見て初めて取引の存在を知ることになります。
不明取引を減らす基本は「取引発生時に情報を残す」こと
不明取引を減らすために重要なのは、月末に確認を増やすことではありません。
取引を行った時点で、後から経理担当者が見ても内容を判断できる情報を残すことです。
例えば、カードを利用した本人であれば、
「8月3日 A社との打ち合わせ用モニター購入」
という内容をその場で残すことができます。
しかし、1カ月後に経理担当者がカード明細だけを見ても、
「8月3日 ○○電器 48,000円」
という情報しかありません。
取引から時間が経つほど、利用者本人も内容を思い出しにくくなります。
そのため、不明取引対策は経理部門だけで完結させるのではなく、取引を行う部署を含めて設計する必要があります。
経理の不明取引を防ぐ5つの事前ルール
1.カードや経費を利用した時点で「目的」を残す
法人カードや立替経費を利用するときは、金額や店舗名だけではなく、何のために利用したのかを残します。
例えば、
「○○電器 48,000円」
だけではなく、
「営業部Aさん/顧客説明用モニター購入/○○案件」
のように記録します。
最低限、
- 利用者
- 利用日
- 利用目的
- 関連する案件や部署
が分かる状態にすると、後から経理担当者が確認しやすくなります。
特に、複数人で同じ法人カードを利用している場合は、利用者を記録することが重要です。
カード明細だけでは、誰が利用したのか分からない場合があるためです。
2.証憑の提出場所と提出タイミングを固定する
領収書や請求書を、
「月末にまとめて経理へ渡す」
という運用にすると、取引と証憑を結び付けにくくなります。
できるだけ取引発生時に近いタイミングで保存します。
また、
- 請求書は専用メールアドレスへ転送する
- 領収書は経費精算システムへ登録する
- 電子データは指定フォルダへ保存する
など、提出場所も統一します。
重要なのは、経理担当者が資料の保存場所を毎回探さなくても済む状態をつくることです。
3.請求・入金を識別できる情報を残す
売上の入金では、「入金された金額」だけでは、どの請求に対応するのか判断できない場合があります。
特に、
- 同じ取引先へ毎月複数の請求をしている
- 複数案件を同時に進めている
- 請求金額と入金額が一致しないことがある
会社では、請求と入金を結び付ける情報が重要です。
例えば、
- 請求書番号
- 案件名
- 顧客名
- 請求金額
- 請求日
- 入金予定日
を請求管理上で確認できるようにします。
入金があったときに銀行明細だけから推測するのではなく、請求データと照合できる状態をつくります。
営業担当者だけが案件情報を持っている場合は、経理からも確認できるようにしておきます。
4.毎月発生する取引は対応表を作る
毎月同じ取引について確認している場合は、都度質問するのではなく、基本情報を残しておきます。
| 明細・取引先 | 内容 | 主な利用部署 | 発生頻度 |
|---|---|---|---|
| ABC CLOUD | システム利用料 | 全社 | 毎月 |
| XYZ通信 | 法人携帯料金 | 営業部 | 毎月 |
| DEF OFFICE | オフィス賃料 | 管理部 | 毎月 |
このような対応表があれば、翌月以降に同じ取引が発生したときに内容を確認しやすくなります。
ただし、過去と同じ取引先だからといって、必ず同じ内容とは限りません。
金額が大きく変わっている場合や、通常と異なる内容が含まれている場合は、改めて確認します。
対応表は、確認を省略するためではなく、毎月ゼロから取引内容を調べ直す作業を減らすために利用します。
5.通常と異なる取引は経理へ事前に共有する
日常的な取引だけでなく、通常とは異なる取引ほど不明取引になりやすくなります。
例えば、
- 新しい取引先との契約
- 高額な設備購入
- 新しいサービスの導入
- 一時的な業務委託
- 返金
- 保証金や敷金などの支払い
- 通常とは異なる入金
などです。
このような取引が発生した場合は、支払や入金が発生する前に経理へ共有します。
例えば、
「来月、新しいシステムを契約する」
「○月○日に保証金の支払いがある」
と事前に分かっていれば、経理担当者も該当する入出金を把握しやすくなります。
必要に応じて、契約書や発注書なども共有します。
経理が銀行明細を見て初めて新しい取引を知る状態を減らすことが、不明取引の予防につながります。
部署ごとに「何を残すか」を決める
不明取引を減らすために、全社員へ同じ入力項目を求める必要はありません。
取引の種類によって必要な情報は異なります。
| 業務・部署 | 残しておきたい情報 |
|---|---|
| 法人カード利用者 | 利用者、目的、案件、証憑 |
| 営業担当 | 顧客、案件、請求内容、入金予定 |
| 購買・発注担当 | 取引先、購入内容、発注資料 |
| 経費申請者 | 支出目的、利用日、証憑 |
| 契約担当 | 契約先、契約期間、支払条件 |
| 経理 | 取引情報と証憑を確認できる保存先 |
経理担当者だけが情報を補完する仕組みではなく、取引内容を最もよく知っている人が必要な情報を残す形にします。
証憑を探しやすい状態にしておく
証憑を共有フォルダへ保存していても、「scan001.pdf」「請求書.pdf」のような名前だけでは後から探しにくくなります。
例えば、
「20260803_ABC社_48000円_モニター購入.pdf」
のように、日付、取引先、金額、内容など、自社で必要な情報を含める方法があります。
大切なのは、誰が保存しても同じ考え方で資料を探せる状態にすることです。
証憑の保存方法だけでなく、担当者ごとに異なる経理の進め方や資料管理を整理し、属人化しにくい運用へ見直す考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理の属人化を解消する方法
ルールは細かくしすぎない
不明取引を防ごうとして、入力項目を増やしすぎると、現場がルールを守らなくなることがあります。
例えば、1件のカード利用について10項目以上入力しなければならない仕組みにすると、登録自体が後回しになる可能性があります。
最初から完璧な情報を集めるのではなく、
後から取引内容を判断するために最低限必要な情報は何か
を考えます。
例えば、
- 誰が
- 何のために
- どの案件・部署で
- どの証憑と対応するか
が分かれば十分なケースもあります。
不明取引を減らす仕組みは、経理担当者だけでなく、実際に取引を行う社員が継続できることが重要です。
不明取引が発生してしまった場合は別の管理へ切り替える
事前ルールを整えても、不明取引を完全にゼロにできるとは限りません。
資料が届かない、通常と異なる入出金が発生するなど、事前に防げないケースもあります。
その場合は、本記事で扱っている「発生予防」から、未処理事項として解消まで管理する段階へ切り替えます。
不明取引を含む未処理事項を一覧にして管理する方法については、以下の記事で詳しく解説します。
合わせて読みたい:経理の未処理一覧とは?月次決算までに解消する管理方法
経理代行を利用していても事前情報は必要
経理代行へ記帳業務を依頼しても、取引の背景まで自動的に分かるわけではありません。
例えば、
「○○ストア 35,000円」
というカード明細だけでは、外部担当者も何を購入したのか判断できない場合があります。
そのため、経理代行を利用するときも、
- 利用目的
- 関連する証憑
- 案件情報
- 契約情報
などを確認できる状態をつくることが重要です。
取引発生時の情報を残せる仕組みを整えることで、社内経理でも外部委託でも確認作業を減らしやすくなります。
経理代行へ依頼できる一般的な業務内容については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説
公認会計士の視点|不明取引は「経理で調べる」のではなく「発生時に防ぐ」
不明取引が多い会社では、経理担当者が月末に銀行明細やカード明細を見ながら、一件ずつ社内へ問い合わせていることがあります。
しかし、取引内容を最も正確に把握しているのは、取引が発生した時点の利用者や担当者です。
時間が経ってから経理担当者が調べるより、
取引を行った本人が、その場で必要な情報を残す方が効率的です。
不明取引が繰り返し発生している場合は、
「経理担当者がもっと早く確認する」
ではなく、
「なぜ経理へ必要な情報が届いていないのか」
を確認します。
例えば、
- 法人カード利用時に目的を残していない
- 証憑の保存場所が統一されていない
- 営業の案件情報を経理から確認できない
- 新しい契約が経理へ共有されていない
といった原因が見つかれば、その入口を改善します。
不明取引を減らすポイントは、経理処理を速くすることではなく、経理処理を始める前に必要な情報がそろう仕組みをつくることです。
よくある質問
Q1. 不明取引を完全になくすことはできますか?
すべての不明取引を完全になくすことは難しい場合があります。
通常とは異なる入出金や、外部から届く情報だけでは判断できない取引もあるためです。
重要なのは、毎月同じ原因で発生している不明取引を減らすことです。
Q2. 法人カードを使うたびに用途を入力する必要がありますか?
カード明細だけで利用目的を判断できない場合は、利用時に用途を残す運用が有効です。
ただし、入力項目を増やしすぎると運用が続かなくなるため、自社で必要な最低限の項目を決めます。
Q3. 領収書があれば利用目的の記録は不要ですか?
領収書だけでは業務上の目的が分からない場合があります。
店舗名や購入品目だけで判断できない場合は、案件や利用目的なども残しておくと確認しやすくなります。
Q4. 毎月同じ取引も情報を残す必要がありますか?
定期的に発生する取引は、対応表などへ基本情報を整理する方法があります。
ただし、金額や内容が通常と異なる場合は、過去の情報だけで判断せず確認します。
Q5. 不明取引が減らない場合は何を見直せばよいですか?
どの種類の取引で不明が発生しているのかを確認します。
例えば、法人カードに集中しているのであればカード利用時の情報、入金に集中しているのであれば請求管理との紐付けなど、取引が発生する入口のルールを見直します。
まとめ
経理の不明取引を減らすためには、発生後の確認を速くするだけではなく、取引が発生した時点で必要な情報を残すことが重要です。
不明取引を防ぐための基本ルールは次の5つです。
- カードや経費を利用した時点で目的を残す
- 証憑の提出場所とタイミングを固定する
- 請求・入金を識別できる情報を残す
- 毎月発生する取引は対応表を作る
- 通常と異なる取引は経理へ事前共有する
経理担当者が後から取引内容を推測する仕組みではなく、取引を行った人が必要な情報を残せる仕組みを整えます。
これにより、不明取引そのものを発生しにくくし、月末の確認作業を減らしやすくなります。
経理代行を利用する場合の費用は、取引件数、資料の状態、確認が必要な取引の量、依頼する業務範囲などによって変わります。
一般的な料金相場や費用の内訳については、以下の記事で詳しく解説しています。
合わせて読みたい:経理代行の費用はいくら?料金相場と内訳を解説
「毎月同じ取引について確認が発生している」
「カードや銀行明細だけでは取引内容が分からない」
「証憑はあるのに、経理が取引との対応関係を確認できない」
このような場合は、取引発生時にどの情報を残すべきか、現在の業務フローから整理することが重要です。
まるまる経理では、現在の経理業務を確認し、日々の記帳や証憑管理を進めやすい運用づくりをサポートします。
