鷲見明(公認会計士) この記事の監修者:鷲見明(公認会計士)

経理担当者が辞める理由とは?退職防止のためにできること

経理担当者が退職する原因(業務過多・属人化・評価不足・環境ストレスなど)と、離職を防ぐために企業が実践できる改善策を解説する記事の表示画像
目次

はじめに

「ようやく採用できた経理担当者が、数年で退職してしまった。」

「長年勤めていた担当者から突然退職を申し出られ、経理体制を一から見直すことになった。」

このような経験をした中小企業は少なくありません。

経理担当者の退職は、人手が一人減るというだけの問題ではありません。

請求書の発行や支払業務、月次決算など、会社のお金に関わる業務へ影響が及ぶだけでなく、採用や引き継ぎにも時間とコストがかかります。

そのため、「退職した後どう対応するか」を考えることも大切ですが、それ以上に重要なのは**「経理担当者が長く安心して働ける環境をつくること」**です。

実際に、経理担当者の定着率が高い会社には共通した特徴があります。

一方で、退職が続く会社では、給与や待遇だけではない、働く環境そのものに課題を抱えているケースも少なくありません。

この記事では、経理担当者が退職を考える背景と、離職を防ぐために経営者が取り組みたいポイントについて、公認会計士の視点も交えながら解説します。

合わせて読みたい:中小企業の経理体制の作り方|採用・外注・経理代行の選び方


経理担当者が退職を考える理由は一つではない

「給与が低かったから辞めた」

「仕事が忙しかったから辞めた」

退職理由は、このように一つだけで説明できるものではありません。

実際には、

  • 仕事量が増え続けている
  • 評価されている実感がない
  • 将来の働き方が見えない
  • 誰にも相談できない

といった複数の要因が積み重なり、「このまま働き続けるのは難しい」と感じた結果、退職を決断するケースが多くあります。

そのため、離職を防ぐためには、「なぜ辞めたのか」を一つの理由だけで考えるのではなく、働く環境全体を見直すことが重要です。


理由① 責任が大きいのに相談できる相手がいない

経理は、会社のお金を管理する重要な仕事です。

請求書の発行や支払処理、給与計算、月次決算など、どの業務も会社の運営に欠かせません。

その一方で、

「この処理で問題ないだろうか」

「判断に迷うが相談できる人がいない」

と感じる場面も少なくありません。

特に中小企業では、経理経験者が社内に一人だけというケースも多く、日常的に相談できる相手がいないことがあります。

責任の重さに対して精神的な負担を感じ続けると、働き続けることに不安を抱きやすくなります。


理由② 仕事の成果が見えにくく、評価されにくい

営業職であれば売上や契約件数など、成果を数字で示しやすい仕事です。

一方、経理の仕事は「問題なく会社を運営できる状態を維持すること」が成果であるため、日々の仕事が目立つことは多くありません。

毎月、

  • 支払が遅れない
  • 月次決算が終わる
  • 給与計算を正確に行う

ことは当たり前と考えられやすく、評価される機会が少ない職種でもあります。

反対に、ミスが発生した場合だけ指摘を受ける環境では、「頑張っても評価されない」という気持ちになってしまうことがあります。

小さなことであっても、

「ありがとう」

「助かったよ」

といった言葉を伝えることは、仕事へのモチベーションにもつながります。


理由③ 成長している実感を持ちにくい

経理担当者の中には、「もっと専門知識を身につけたい」「仕事の幅を広げたい」と考えている方も少なくありません。

しかし、

  • 毎年同じ業務の繰り返し
  • 新しいシステムを導入する予定がない
  • 研修や資格取得の支援がない

といった環境では、自身の成長を実感しにくくなります。

特に若手の担当者ほど、「この会社で働き続けることで、自分は成長できるのだろうか」という視点で職場を見ています。

給与や待遇だけでなく、学ぶ機会や新しい経験を積める環境も、定着率へ影響する要素の一つです。


理由④ 改善の提案が受け入れられない

経理担当者は日々の業務を担当しているからこそ、

「この作業はもっと効率化できそう」

「この運用は見直した方がよい」

という改善点に気付きやすい立場でもあります。

しかし、

「今までこのやり方だったから」

「余計なことは考えなくていい」

という雰囲気では、改善提案をしようという気持ちも薄れてしまいます。

改善に取り組めない職場では、「毎日同じ作業を繰り返しているだけ」という感覚になりやすく、仕事へのやりがいも失われてしまいます。

改善案をすべて採用する必要はありませんが、「意見を聞いてもらえる環境」であることは、働き続けたいと思える職場づくりにつながります。

合わせて読みたい:経理担当者は何人必要?従業員数別の目安と経理体制を解説

理由⑤ 経営者とのコミュニケーションが不足している

経理担当者は、経営者と直接やり取りをする機会が多い職種です。

一方で、日々の業務に追われる中で、

  • 困っていることを相談できない
  • 業務量について話す機会がない
  • 今後の働き方について話し合う場がない

という状態が続くこともあります。

特に中小企業では、経営者自身も営業や現場業務を兼務していることが多く、経理担当者とゆっくり話す時間を確保できないケースも少なくありません。

しかし、小さな不満や悩みを話せないまま時間が過ぎると、「この会社では働き続けることが難しい」と感じるきっかけになることがあります。

退職は突然決断されるように見えても、その背景には長期間にわたるコミュニケーション不足が隠れているケースも少なくありません。

合わせて読みたい:経理が採用できない原因とは?中小企業が取るべき対策


退職を防ぐために経営者ができる5つのこと

経理担当者の離職を防ぐためには、給与や福利厚生だけを見直せばよいというものではありません。

日々の働きやすさや、安心して仕事を続けられる環境を整えることが、長期的な定着につながります。

1.定期的に業務量を確認する

経理業務は、会社の成長に合わせて少しずつ増えていきます。

そのため、以前は問題なく対応できていた業務量でも、数年後には大きな負担になっていることがあります。

例えば、

  • 残業が増えていないか
  • 特定の時期だけ極端に忙しくなっていないか
  • 新しい業務が増えていないか

などを定期的に確認することで、担当者へ負担が偏ることを防ぎやすくなります。

合わせて読みたい:経理代行とは?業務内容・導入の流れを解説


2.成果だけではなく日々の取り組みを評価する

経理の仕事は、「ミスなく業務を終えること」が評価されにくい職種です。

そのため、毎月問題なく業務を終えていることや、改善提案を行っていることなど、日々の取り組みにも目を向けることが大切です。

必ずしも評価制度を大きく見直す必要はありません。

日頃から感謝の言葉を伝えたり、努力を認めたりするだけでも、「自分の仕事を見てもらえている」という安心感につながります。


3.将来について話し合う機会をつくる

定期的な面談では、現在の業務だけでなく、

  • 今後挑戦してみたいこと
  • 身につけたいスキル
  • 不安に感じていること

などについて話す機会を設けることも重要です。

経営者が将来について一緒に考えてくれる環境は、安心して働き続けられる会社づくりにつながります。


4.改善提案を受け入れる姿勢を持つ

現場で働く経理担当者は、日々の業務の中で多くの改善点に気付いています。

すべてを実現する必要はありませんが、

「まず話を聞く」

「一緒に改善方法を考える」

という姿勢を示すことで、「会社をより良くする一員として期待されている」という実感を持ちやすくなります。

改善が積み重なることで、働きやすい環境づくりにもつながります。

合わせて読みたい:中小企業の経理DX|導入のための実践7ステップ


5.安心して休める体制を整える

休暇を取得するたびに、

「自分が休んだら仕事が止まってしまう」

という状況では、心身ともに大きな負担になります。

担当者が安心して休める環境を整えるためには、

  • 業務内容を共有する
  • 定期的に業務手順を確認する
  • サポートできる体制を整える

といった取り組みが重要です。

「休める職場」であることは、結果として「長く働きたい職場」につながります。

合わせて読みたい:経理担当者が退職・休職したとき、経理代行は使える?対応範囲を解説


公認会計士の視点|退職は突然ではなく、小さな不満の積み重ねで起こる

これまで多くの中小企業を見てきましたが、経理担当者が退職を決断する背景には、一つの大きな理由だけではなく、小さな不満が積み重なっているケースがほとんどです。

例えば、

  • 忙しい状況が改善されない
  • 頑張っても評価されない
  • 将来について相談する機会がない

こうした状態が続くと、「もう少し働きやすい会社があるのではないか」と考えるようになります。

一方で、定期的に話を聞き、困っていることを改善しようとする姿勢がある会社では、同じような業務量であっても定着率が高い傾向があります。

経理担当者の離職を防ぐためには、「辞めてから対応する」のではなく、「辞めたいと思う前に対話すること」が何より重要です。


よくある質問

Q. 給与を上げれば退職は防げますか?

給与は重要な要素の一つですが、それだけで離職を防げるとは限りません。

働きやすさや評価、将来への不安など、複数の要因が重なって退職を決断するケースが多いため、職場環境全体を見直すことが重要です。


Q. 一人で経理を担当している会社は退職しやすいのでしょうか?

一人で担当していること自体が問題ではありません。

ただし、相談できる相手がいない、休みにくい、負担が偏っているといった状況が続くと、離職につながる可能性があります。

合わせて読みたい:経理の属人化を解消する方法


Q. 退職を防ぐために最初に取り組むべきことは何ですか?

まずは経理担当者と話す機会をつくり、現在困っていることや改善してほしいことを聞くことから始めることをおすすめします。

小さな課題を早めに把握し、改善を積み重ねることが、離職防止につながります。


まとめ

経理担当者が退職する理由は、給与や待遇だけではありません。

責任の重さや評価への不満、将来への不安、コミュニケーション不足など、さまざまな要因が積み重なって退職を決断するケースが多くあります。

だからこそ、採用活動に力を入れるだけでなく、「長く働き続けられる環境」を整えることも、経営者にとって重要な取り組みです。

特に、

  • 業務量を定期的に見直す
  • 日々の取り組みを評価する
  • 将来について話し合う
  • 改善提案を受け入れる
  • 安心して休める体制を整える

といった取り組みは、経理担当者の安心感や働きがいにつながります。

採用した人材に長く活躍してもらうためにも、「辞めてから対応する」のではなく、「辞めたいと思わせない職場づくり」を意識することが大切です。

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