鷲見明(公認会計士) この記事の監修者:鷲見明(公認会計士)

経理の属人化はなぜ危ない?会社に起こるトラブル

経理担当者の属人化が招く業務停滞・ミス増加・引き継ぎ不能などの企業リスクのまとめを解説する記事の表示画像

「経理担当者が急に辞めたら、業務は回るだろうか。」

このような不安を感じたことがある経営者の方も多いのではないでしょうか。

中小企業では、経理担当者が一人、または少人数で業務を担当していることも珍しくありません。そのため、日々の業務を続けるうちに、請求書の発行や支払い、月次決算などが特定の担当者に集中し、「その人しか分からない仕事」が増えてしまうことがあります。

この状態が、経理の属人化です。

担当者が在籍している間は問題なく業務が進んでいるように見えるため、属人化は気付きにくいという特徴があります。

しかし、担当者の退職や休職、急な欠勤などをきっかけに、それまで見えていなかった課題が一気に表面化するケースは少なくありません。

属人化について全体像や解消の考え方を知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。

合わせて読みたい:経理の属人化を解消する方法

この記事では、経理の属人化を放置することで会社にどのような影響があるのか、代表的なトラブルを中心に解説します。


目次

属人化しやすい経理業務の特徴

経理業務は、会社のお金を管理する重要な仕事です。

毎月決まったスケジュールで進める業務が多い一方で、取引先ごとの対応や社内ルールなど、会社ごとの運用も数多くあります。

そのため、一人の担当者が長期間業務を担当していると、経験や知識が自然とその人へ集中しやすくなります。

例えば、

  • 請求書の発行や送付
  • 支払業務
  • 経費精算
  • 月次決算
  • 会計ソフトの運用
  • 取引先ごとの処理方法

などは、担当者の経験によって効率良く進められていることも多くあります。

一方で、その経験や判断が共有されないまま蓄積されると、「担当者しか分からない業務」へ変わっていきます。

属人化は、担当者が優秀だから起こるのではありません。

会社として業務を共有する仕組みが十分に整っていないことで、少しずつ進行していくものです。


トラブル① 担当者がいないと業務が止まる

経理の属人化で最も大きなリスクは、担当者が不在になった際に業務が止まってしまうことです。

例えば、

  • 急な退職
  • 長期休職
  • 病気やけがによる欠勤
  • 異動

などが発生した場合、業務を引き継げる人がいなければ、経理業務は予定どおり進まなくなる可能性があります。

特に月末や月初は、請求書の発行や支払い、給与計算、月次決算など、期限が決まっている業務が集中します。

これらが遅れると、社内だけでなく取引先や従業員にも影響が及ぶことがあります。

また、経営者が資金繰りや売上の状況を確認したいと考えても、必要な数字をすぐに把握できないケースもあります。


トラブル② ミスが見つかりにくくなる

属人化した経理では、入力から確認までを一人で行う場面が増えやすくなります。

その結果、日々の業務は問題なく進んでいるように見えても、小さなミスが見過ごされる可能性があります。

例えば、

  • 入力漏れ
  • 二重計上
  • 勘定科目の誤り
  • 修正漏れ

などです。

もちろん、属人化しているからといって必ずミスが発生するわけではありません。

しかし、確認できる人が限られている環境では、誤りに気付きにくくなる傾向があります。

こうしたミスは、月次決算や決算業務のタイミングで初めて見つかることもあり、修正に時間がかかるケースも少なくありません。

また、一人だけで業務が完結する状態が続くと、問題が起きても原因を把握しにくくなることがあります。

トラブル③ 不正が発見しにくくなる

経理の属人化が進むと、ミスだけでなく、不適切な処理や不正にも気付きにくくなる可能性があります。

経理業務では、お金の出入りや会計データを日常的に取り扱います。

そのため、一人の担当者だけが内容を把握し、確認まで行っている状態では、周囲が業務の状況を把握しにくくなります。

もちろん、属人化しているからといって不正が起こるわけではありません。

しかし、「誰も内容を確認できない」「他の人が業務を理解していない」という環境では、小さな異変に気付きにくくなることがあります。

例えば、

  • 本来確認すべき処理が見過ごされる
  • 誤った処理が長期間そのままになる
  • 不自然な取引に気付く人がいない

といった状況は、会社にとって大きなリスクとなります。

こうした状態は、経理業務がブラックボックス化しているサインともいえます。

ブラックボックス化によるリスクや防止策については、こちらの記事で詳しく解説しています。

合わせて読みたい:ブラックボックス化は危険|不正を防ぐ5つの対策


トラブル④ 経営判断が遅れる

経理の役割は、帳簿を作ることだけではありません。

会社の数字を整理し、経営判断に必要な情報を経営者へ届けることも重要な役割です。

しかし、属人化が進むと、必要な情報をすぐに取り出せない状況が生まれることがあります。

例えば、

  • 売上や利益の状況を確認したい
  • 資金繰りを把握したい
  • 銀行へ提出する資料を準備したい

といった場面で、担当者しか状況を把握していないと、経営判断に必要な情報が揃うまで時間がかかることがあります。

経営のスピードが求められる中小企業では、この遅れが意思決定に影響することもあります。

経理は、数字を記録する部署であると同時に、経営を支える役割も担っています。

そのため、特定の担当者だけが情報を把握している状態は、会社全体にとってもリスクになるといえるでしょう。

合わせて読みたい:証憑の保管ルールを統一化!紙・PDF・メールの整理方法


トラブル⑤ 業務改善が進まなくなる

属人化の影響は、現在の業務だけではありません。

将来の業務改善にも影響を及ぼします。

担当者しか業務内容を把握していない状態では、

「今のやり方を変えると仕事が止まるかもしれない」

という不安から、新しい取り組みを進めにくくなることがあります。

その結果、

  • 同じ作業を繰り返している
  • 手作業が減らない
  • 情報共有が進まない
  • 業務改善の話し合いが進まない

といった状況が続いてしまいます。

会社が成長しても、経理だけが以前と同じやり方のままでは、業務量に対応することが難しくなります。

また、クラウド会計やデジタル化を進めようとしても、現在の業務内容が整理されていなければ、十分な効果を得られないことがあります。

経理DXが思うように進まない理由については、こちらの記事で詳しく解説しています。

合わせて読みたい:中小企業の経理DX|導入のための実践7ステップ


属人化は会社全体の課題として考えることが大切

属人化というと、「経理担当者の問題」と考えられることがあります。

しかし、実際には担当者個人ではなく、会社全体の体制によって起こるケースがほとんどです。

担当者が真面目で責任感が強いほど、

「自分が対応した方が早い」

という状況になりやすく、その結果として業務が集中してしまうこともあります。

だからこそ、属人化は担当者だけに改善を求めるのではなく、会社全体で取り組むべき課題として考えることが重要です。

公認会計士の視点

属人化による問題は、担当者が退職してから初めて気付くケースが少なくありません。

「今まで問題なく回っていたから大丈夫」

そう思っていても、実際に担当者が休職したり退職したりすると、

「支払いの方法が分からない」
「必要な資料が見つからない」
「月次決算が進められない」

といった状況が一度に発生することがあります。

こうした問題は、担当者の能力や責任感が原因ではありません。

会社として経理業務を共有する仕組みが整っていなかったことが原因であるケースがほとんどです。

また、属人化は一日で起こるものではなく、日々の業務の積み重ねによって少しずつ進んでいきます。

だからこそ、「今は問題ないから」と放置するのではなく、経理体制を定期的に見直し、会社全体で業務を把握できる状態を目指すことが重要です。

合わせて読みたい:経理の引き継ぎを楽にする3つの改善策


FAQ

Q1. 経理担当者が一人だけだと、必ず属人化してしまいますか?

いいえ。

担当者が一人であっても、業務の流れや情報が会社全体で共有されていれば、属人化のリスクを抑えることは可能です。

人数ではなく、「担当者しか分からない状態」になっているかどうかが重要です。


Q2. 属人化しているかどうかは、どのように判断できますか?

一つの目安として、「担当者が数日間不在になっても業務を継続できるか」を考えてみるとよいでしょう。

担当者が休んだだけで請求や支払い、月次処理などが止まってしまう場合は、属人化が進んでいる可能性があります。


Q3. 属人化は中小企業だけの問題ですか?

いいえ。

大企業でも担当者しか把握していない業務は存在します。

ただし、中小企業は担当者が少ないため、一人に業務が集中しやすく、影響が大きくなりやすい傾向があります。


まとめ

経理の属人化は、担当者一人の問題ではなく、会社全体の経理体制に関わる課題です。

担当者が在籍している間は大きな問題が見えなくても、

  • 業務が止まる
  • ミスに気付きにくくなる
  • 不正が発見しにくくなる
  • 経営判断が遅れる
  • 業務改善が進まなくなる

といったトラブルにつながる可能性があります。

重要なのは、問題が起きてから対応するのではなく、日頃から経理体制を見直し、担当者だけに依存しない仕組みを整えていくことです。

経理の属人化をどのように改善すればよいか、全体像や進め方を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

経理体制の見直しや属人化対策をご検討の方は、まるまる経理でも中小企業の経理業務改善や体制づくりをご支援しています。状況に応じた改善方法をご提案していますので、お気軽にお問い合わせください。

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